第8話 手を組みません?

「こんにちはー、また来ちゃいましたー」


「2度と来るなって言っただろ!」


今日は廉くんがいないシフト、それだけでも気分が下がっているのに、ブラックリストの客が来るなんて… ※田原りん調べ


「何でまた来たんだ?」


「いや、家から1番近いコンビニがここなので、しょうがないですよね? 誰がわざわざ家から遠いコンビニに行くんですか?」


「チッ!」


いちいちムカつくやつだ。話してるだけでイライラしてくる。


「今日は、りんさんと争うために来たわけじゃないんですよ」


「ん? じゃあ何でここに来たんだ?」


「りんさん、私たち手を組みません?」


「はぁ?」


どういうことだ? 何のためにこんな奴と手を組まないといけないんだ?

意味がわからない。


「何のためにお前と手を組まないといけないんだ?」


「あなたは廉くんのことが好きでしょ?」


「何度も言わせるな! 大好きだ!」


「やっぱり、合格だわ」


「はぁ? さっきからよく分かんないんだよ! 何のために! お前と! 手を組むんだ!?」


「みんなで廉くんを幸せにしてあげようって事!」


「? どういう事だ?」


「りんさんは、廉くんを幸せにしたいんですよね?」


「あぁ、そうだ」


廉くんは私が絶対に幸せにする。それは私の生涯をかけて遂行する私の義務であり、望みでもある。最悪、廉くんを幸せにするのは別の誰かでもいいけど、でも私が私自身で廉くんを幸せにしたい!


「なら一緒に廉くんを幸せにすればいいじゃないですか!」


「すまん、よく分からない」


一緒に廉くんを幸せにする? さっきから言ってる意味がわからない。


「だからね、廉くんには幸せになって欲しい、それが私たちの共通の望みなの、そのためには私は何でもする。たとえそれが法を犯すものだとしても、廉くんに言われれば何でもやる、それが廉くんの望みなら、私は何でもするって事!」


「……………」


廉くんの事は独り占めしたいが…

廉くんが私に振り向いてくれるとも限らない。

なら、無理矢理振り向かせればいいと思ったが、嫌われてるまま過ごすのもそれは嫌だ。

だったら、私が今すべき最善の行動は…


「………………………………組む」


「ん? 何て言ったか聞こえなかったー」


「手を組む! 聞こえたか! お前と手を組むって言ってるんだよ!」


「やったー、良かったー、手を組むって言ってくれて」


「いらっしゃいませー」


1人の女性がコンビニに入ってくる。初めて見る女の人だ。綺麗な長い黒髪で女の私でも惚れてしまいそうになるくらい綺麗という言葉が似合う人だった。

その人は商品を見ずにレジに向かってくる。


「ど、どうかしましたか?」


「良かったわね。あなた、もしここで答えを間違っていたら…」


「お、お客様?」


「消えてもらったわね。この世から…」


「はい?」


「あっ! 言い忘れてたけど、この圧が強くて髪の毛が邪魔なほど長い人が私たちの仲間ね」


「???」


「申し遅れたわね、私、遠野真珠よ。滝山廉の許嫁よ」


「は? い、許嫁!?」


「もう、真珠ちゃんったら元を忘れてるわよ」


「え? 元?」


「そう、真珠ちゃんは廉くんの許嫁なの!」


「許嫁って…」


「彼は滝山グループの御曹司で、私はもともと彼と許婚という関係だったの」


「廉くんが滝山グループの御曹司だった事は調べたから知ってるけど…」


「そう、なら話は早いわね、彼は自分で将来結婚する人を決めると言っている、だから質より量の作戦で彼を徹底的に私たちに溺れさせるのが目的よ」


「な、なるほど?」


「分かったわね。今度彼の家でパーティをするつもりだから、参加してもらえる?」


「廉くんの…お家…行く! 行きます!」


「良かったわ。じゃあLINE教えてもらえる?」


真珠さんとLINEを交換したら、すぐにグループLINEに招待される。

そのグループ名は…


◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


これはダメだ。伏せ字にしないと。何一つわからないようにしないと。そのグループ名はこの世から消されてしまうほどの放送禁止用語のオンパレードだった。


「これで情報共有をしているから、コンビニのバイトで何かあったらこのグループに連絡しなさい。絶対よ。協力するからには情報は必ず共有する。分かったわね」


「わ、分かりました」


「そう、良かったわ、お邪魔したわね」


「じゃーねー」


2人がコンビニから出て行く、何だかすごい2人だったけど、そんな事はどうでも良かった。


「もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっと、もーっと廉くんとお近づきになれる。嬉しいすごい嬉しい、やばい下半身がキュンってする♡」


「あの、お会計いいですか?」


「あっ! すみません!」


廉くんの事で頭がいっぱいで目の前にお客様がいることに気が付かなかった。


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