第5話 バイト初日

僕が入学した高校は基本的に自由な校則なので、もちろんバイトも許可されている。

というかバイトが許可されている高校に入学したのもある。


「じゃあ、来週からよろしくね」


「はい、よろしくお願いします」


4月の上旬、僕はアパートから徒歩3分のコンビニのバイトの面接に来ていた。

面接といっても形だけのもので、簡単な質問をされ終わりになった。


「あっ! 廉くん、面接どうだった?」


シフトに入っていた田原さんが話しかけてくる。


「まぁ、面接といっても形だけだから」


と、店長が田原さんに言う。


「そっかー、でも廉くんなら受かると思ってたよ!」


「ありがとうございます」


「そうだ田原さん、廉くんの教育係になってくれない?」


「えっ! 私がですか? はい、もちろんやります!」


「じゃあ、廉くん、来週から田原さんにいろんなこと教えてもらって」


「はい、分かりました。よろしくお願いします、田原さん」


「田原さんじゃ、なんか堅苦しいから、りんでいいよ。私のことはりん先輩って呼んで!」


「えっ! 田原さん、僕には、りんちゃんって呼ばせてくれなかったのに…」


「店長と廉くんは違うんです!」


「分かりました。よろしくお願いします、りん先輩」


「そ、そうなの…」


店長が明らかに落ち込んでる。


「じゃあ廉くん、来週からよろしくね」


「はい、最初は店長とりん先輩には迷惑をかけると思いますが、精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」


そして僕は今日の晩御飯を買い、コンビニを後にした。


「店長! 廉くんと私のシフトを同じにしてください!」


「えっ? 大丈夫? 田原さん、廉くん結構シフト入れてるよ」


「はい! 大丈夫です! 廉くんと一緒ならどこでもいいです!」


「………田原さん」


「? 何ですか? 店長」


「廉くんのこと好きでしょ」


「あーやっぱり、分かります? 初対面なのに疲れている私を気遣う優しい心も持っていて、女の子がチンピラたちに絡まれていて、私がチンピラたちに注意する前に廉くんはその女の子を助けてあげたりしてて、かっこいいところしかないんですよ! 廉くんは! だから店長! 私を廉くんの教育係にしてくれてありがとうございます!」


「そ、そう、なら良かった」


店長は驚いていた、彼女がこのコンビニで働き始めて2年、ここまで彼女が饒舌に喋るのを見たことがなかった。





そして1週間後、初バイトの日になった。


「今日からよろしくお願いします!」


「よし、じゃあ始めようか! 私が教えてあげるからね!」


コンビニバイトの仕事はレジの接客や商品の補充などが主な仕事だ。

ん? なんか距離近くないか?


「廉くん、飲み込み早いねー」


「ありがとうございます、りん先輩、けど…」


「けど?」


「なんか近くないですか?」


「そう? 気のせいじゃない?」


今は商品補充をしていて横で、りん先輩が見ているのだが、う、腕が、りん先輩のむ、胸に当たりそうなのだ。


「いらっしゃいませー」


コンビニにお客さんが入ってきた。


「やっぱりここで働いてるんだ!」


「瑠璃さん!? えっ? 今日からって…」


「い、いや、何でもないよ」


「廉くん、この人誰?」


「えっとこの人は…」


「はい! 私、廉くんのお隣に住んでいる、日高 瑠璃です! 以後お見知り置きを…」


「え! 廉くんの隣に… う、う、嘘だよね… 廉くん!」


「いや、本当ですよ」


「そ、そんな…」


りん先輩が落ち込んでいる、どうしてだ? 瑠璃さんが隣に住んでいるだけなのに…


「えっと…瑠璃さんと廉くんは別に付き合ってるとかじゃないんだよね?」


「はい、付き合ってません、ただの隣人です」


「うん! 付き合ってないよ!」


「………そう、なら良かった」


瑠璃さんはりん先輩のレジに行き、お会計をしていた。

もちろんまだ見習いなので、レジに立っていてもほとんどの人が、りん先輩の方に行ってしまう。りん先輩は茶髪でポニーテールにしていて誰が見ても可愛いと思う容姿をしているのでこのコンビニの看板娘というのもあるだろう。、まぁ、店長の娘ではないけど…

お会計の時、僕は裏にいたので、何を喋っていたのかは分からないのだが、2人で話し込んでいたみたいだ。女子のコミュ力ってすごいなと思った1日だった。


「りんさん、ここいいコンビニですね。私もここでバイトしちゃおうかなー、廉くんに教えてもらおうかなー」


「おい! そ、それはダメだ! 絶対に!」


「えっ? どうしたんですか急に…怖いです、りんさん」


「チッ」


「えっ? 今舌打ちしました? 怖いよー廉くーん助けてー」


「いいか、廉くんのことが誰よりも好きなのは私だ。気遣いができて、かっこいい廉くんが大好きだ! お前みたいな女に渡すもんか!」


「私だって、あなたみたいなすぐ舌打ちするような女に私の廉くんは渡すもんですか!何てったって私は廉くんの隣に住んでるんですから、あなたが知らない廉くんをたくさん知ってるんですからね。絶対に渡しませんからね!」


お会計した商品を渡す。


「ありがとうございましたー」


「また来ますね」


「2度と来るな! このコンビニに!」

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