第10話
「じゃあ私は……今まで……努力なんてしてこなかったってこと?」
「してこなかったワケじゃないよ。ただ、本気じゃなかった。だからこそ、今の自分に嫌気がさしているんじゃないの?」
「あっ……」
「本気の努力を知らない人は、本気の努力をした時、その壁の大きさに打ちのめされる。誰しもがね」
「つまり……今回のは、本気の努力だった、の?」
「そうだと思うよ」
頷く
その表情は、一筋の光に見えた。真っ暗な闇の中で導いてくれる、唯一の道。
「本気の努力の苦しさを知って、それを越えるか諦めるかで、結果は変わる。
「諦めるか……越えるか……」
「諦めるのは弱い自分を守る道、越えるのは今の自分を傷つける道」
「……」
どっちを選ぶ、ということだろう。
自分を傷つけるのは嫌だ。だが、弱いままでいるのも癪だった。
誰にも迷惑かけたくない。
誰にも馬鹿にされたくない。
誰かに褒められたい。
誰かに求められたい。
ううん、それ以上に。
自分という存在に、誇りを持ちたい。
「私は……越える」
誰でもない、自分自身のために。
「だから、本気の努力の仕方を教えて!」
「もちろん」
差し出された手を、私は強く握りしめる。
その瞬間、視界がクリアになった。夕日が、入道雲が、カラスの群れが、鮮明に、そして美しく見える。
息を呑んだ。私がこんなにも綺麗な世界にいたことに、初めて気づいた。
もしかしたら、大嫌いだと思っていたこの自分さえ、綺麗なのかもしれない。
大嫌いな自分にさよならを 葉名月 乃夜 @noya7825
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます