第4話


 気が重い。体も重い。鉛を飲み込んだように胸の奥すら重い。まるで、何かに憑かれたようだった。


 帰りたくない。家に、戻りたくない。 


 けれど、そんな我儘が許されないことも、私は知っている。


 顔を上げれば、世界は一瞬にして赤に包まれる。血に近い赤で染まった空に、点々と胡麻のように烏が見える。


 彼らは鳴きながら太陽の方に向かっている。おそらく、ねぐらに帰るのだろう。


「君たちも、帰るという行為に嫌気がさしているのかな?それとも、早々と帰りたくてうずうずしているのかな?」


 誰にも聞こえるはずのない声は、無論、烏にさえ届くはずがない。風でかき消されるはずの言葉。だが、それに答えるように、一声、一羽が鳴いた。


「……そっか。君たちも、そうなんだ」


 同じなんだね、と呟く。人間も鳥も関係ない。帰りたくない時だってあるんだ。


「私もね、そうなんだよ」


 でも、帰らなきゃいけない。


 特に大きい理由とか縛りがあるわけじゃない。けど、帰らないと親が心配する。親が不安になる。そんなことするのは、だから。


「はぁ。親なんて、いなければなぁ。……なんて、ダメだよねそんなこと言っちゃ。私がもっと優秀になればいいだけの話だし」


 そう、自分のレベルがもっと上がれば、こんな苦しみは消える。


 もっと頭を良くすれば。

 もっと運動ができれば。

 もっと絵が上手く描ければ。


 だから、悪いのは、全部自分自身なんだ。

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