第2話
「
「はい」
「
「はい」
名前を呼ばれた生徒が、席を立って先生の方に向かい、紙をもらって戻ってくる。教室内は、先生以外誰も喋っていない。
それもそのはず。今は定期テストの返却をしている真っ最中だ。
一人一人の名前が呼ばれていく中、私は祈るように手を組んだ。
どうかいい点数でありますように。
せめて、7割は取れていたらいい。
「
「は、はい……!」
とうとう私の名前が呼ばれる。痙攣を起こし始めた足を懸命に動かす。緊張で口から心臓が飛び出そう。
先生は何も言わず、私を見ることもなく答案を渡してきた。それを両手で受け取り、急いで席に戻る。
いい点数であることを祈りながら、ゆっくりとその紙を開く。
「……あぁ」
数字を見た瞬間、全身の力が一気に抜けた。単刀直入に言うと、思った以上に点数が悪かった。今まで見たことない、と言っても過言ではないほどに。
「なんで……?」
目の前の現実があまりにも理解し難くて、ため息すら出てこない。
おかしい、こんなはずじゃ無かった。もっと、もっと良い点数のはずなのに。
そう、例えば、あの子みたいに。
チラリ、と隣の席に視線を向ける。少しだけ口角が上がった少女が手にしている紙の点数が僅かに見えた。
ー93点。
心臓が鷲掴みされたような気がした。この子はこんなにも高得点を取れているのに、なんで私はこれっぽっちの点数なんだろう。
ここは県内でトップの偏差値を誇る進学校。難関大学の合格者数も他校と比べて圧倒的に多いこの高校は、頭のいい人の集まりでもある。
そんな場所に、私は無事合格することができた。先生が学年一位を何度も手にしたことがある私を勧め、親も目を輝かせて私に期待した。
私はみんなの期待に応えられるように努力した。部活を引退した後は、毎日のように塾に行って、家でだって何時間も勉強した。
お陰で、難なくこの学校に入ることができた。そう、入ること、は。
高校の勉強の内容、スピードは、中学校とは比べ物にならないものだった。応用ばかりを扱うし、説明は早いし、頭で理解する前に全てが終わってしまう。
授業が分からない。そんな感覚を初めて味わった。今まで、こんなことなかったのに。
言っていることが分からない、内容が理解できない。そんなことを感じて、焦らないわけがなかった。
追いつけない、置いてかれる、分からなくなる。それが怖すぎて、受験勉強ぐらいの学習に取り組んだ。精一杯予習して、授業が終わったらすぐに復習して。
テスト勉強だって頑張った。ワークも教科書もプリントも見返して、大丈夫だって思ったのに。
返ってきたのは、62点の答案。
なんで、なんでこんなにできないの……?
私はこんなんじゃない、こんな点数しか取れない人間じゃない。
だけど、何度見ても点数は変わらない。先生の採点ミスがあることも望めない。
私は大した人間じゃないんだって、そう言われた気がした。
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