我慢の限界
マテスが帰ってから、13日が経った。
俺は13日間毎日、ボコボコにされた。
当然何も強くなってる気がしないし、もう我慢の限界で、夜中、俺はこっそり屋敷を抜け出して、いつも稽古……いや、サンドバッグにされる場所に、落とし穴を作りに来ていた。
もちろん、ただの落とし穴だとバレるだろうし、そもそも引っかからないと思うから、魔法でだ。と言うか、ただの落とし穴だと、気が付かなかったとしても、あいつはいつも俺より先に待ってるから、その間に落ちても困る。
「ふふっ、くふっ、ふはははっ」
俺はなるべく小さい声で笑いながら、完成した落とし穴を見ていた。
あぁ、完璧だ。ありがとう、母さん。俺を天才に産んでくれて。これで、父さんを……いや、あいつを落として、この13日間の仕返しに、ボコボコにしてやるよ!
そんなことを思いながら、俺はウキウキで屋敷の中にまたこっそり戻って、眠りについた。
「リオン様、起床の時間ですよ」
そして朝、俺はアイナにそう言われて、目を覚ました。
俺が稽古の後、よくアイナと話してるからかは分からないが、最近、アイナが俺の専属メイドになったんだよ。
だから、ここ10日間は毎日アイナに起こされてるから、もう慣れっこだ。
「……あぁ、おはよう」
「はい。おはようございます」
いつもなら、もう父さんにボコボコにされすぎて、朝食を食べるのすら面倒に感じるんだが、今日は、昨日作った落とし穴のおかげで、直ぐにベッドから起きて、朝食を取りに行った。
「来たかい、リオ」
そして、朝食を食べ終えた俺は、いつもの時間に、稽古……サンドバッグにされる場所に来ていた。
今日は、俺がサンドバッグにしてやる。
そう思いながら、木剣を構えたエルドを見た俺は、こっちも木剣を構えた。
「行くよ」
そして、エルドはそう言うと、いつも通り、俺に突っ込んできて木剣を振り上げた。
ここでエルドの木剣を受けるなんてことはしない。そんなことはとっくの昔に試して、大人と子供の力の差でボコボコにされたから。
あの時だけはどれだけ俺に無属性魔法の才能があればと考えたことか。
まぁ、そんなのは今どうでも良くて、最低限の動作でエルドの木剣を避けた俺は、後ろに大きく飛んだ。
すると、そんな俺を追ってくるように、またエルドは突っ込んできやがった。
よく見ろ、俺。あいつの目を見ろ。分かるだろ。どこを狙ってるか。それで、落とし穴に誘導しろ。感覚を研ぎ澄ませろ。あのクソ野郎にボコボコにされてる最中見つけた、時間がゆっくりになる場所を。
そして、俺は感覚を研ぎ澄ませて、エルドの木剣を避けながら、ちょうどいい攻撃がくるのを待った。
すると、すぐにきた。ちょうどいい攻撃が。
俺はその攻撃を受けようとして、上手く、落とし穴がある方向に吹き飛ばされた。
あぁ、こい、こいっ、こいよっ! 大丈夫。あんたなら、落とし穴に落ちた後に、魔法を打ち込んだって、死にはしないよ。だから、早くこい。
俺がそう願ってると、エルドがまた、突っ込んできた。……さっきより速い速度で、落とし穴を避けながら。
「は?」
バレてる? いや、隠蔽は完璧だったはずだ。
そう思っていると、俺は目で見えているのに、体が追いつかず、また、腹を蹴り上げられた。
「ごふっ」
そして浮き上がった俺の体を、エルドは木剣で横に薙ぎ払い、俺を落とし穴の方向に飛ばしやがった。
……まじ、かよ。バレてんのかよ、クソが。……こんなあからさまに落とし穴の方向に飛ばされて、バレてないわけが無い。
そうは思ったが、俺は落とし穴に落ちる恐怖はなかった。
だって、俺が自分の魔法で作った落とし穴だぞ? 自分が落ちるような設計にしてる訳ないだろ、バカが。
そう思っていると、俺は、普通に落とし穴に落ちた。しかも結構深い。
「は? なんで……」
「一応、言っておくけど、僕も魔法、使えないわけじゃないからね」
俺がつぶやくようにそう言うと、上の方から、そんな声が聞こえてきた。
は? この落とし穴の主導権、取られてるって事か? いや、これ作ったの、闇魔法だぞ。あいつに、闇魔法の適正なんてあるのか?
「魔法ってのはね、実力差がありすぎると、適正が無い魔法でも、乗っ取る事が出来るんだよ。覚えておくといいよ、リオ。リオも将来的には、できるようになるだろうからね」
……大人げねぇ。そこは、勝たせろよ。ボコボコにさせろよ。
……俺はそんな負け惜しみを思いながら、油断しきってるエルドの影から、闇の手を伸ばした。
ははっ、バカが。俺が昨日、落とし穴しか用意してないとでも思ったか! これで、俺の勝ちだ。
そう思っていると、エルドが木剣を振って、影を斬った。
……?????
意味のわからない光景を最後に、俺の意識は途切れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます