言葉のナイフ

 マテスに引っ張られて、部屋に連れてこられた俺は今、マテスとアイナと三人で部屋にいる。

 アイナは俺の傍に立っていて、マテスはまた、俺の出している水の龍を作っていた。

 そして、俺の頭上辺りには、小さな闇の龍を二匹ほど作って、魔力操作の練度を上げていた。

 ……闇の龍を頭上に作り出してる理由は、また、マテスに食べられないためだ。……流石に、水はともかく、闇を食べられるのは、絶対体に悪いと思うから。


「りおんくん、私も魔法、使える? こんなの、作れるかな?」


 そうやって、マテスの相手をしていると、俺の指先に繋がっている水の龍と遊びながら、マテスはそう言ってきた。


「……魔法は、使えると思う。でも、これは、ちょっと、難しい、かもな」


 俺はマテスから目を逸らしながら、そう言った。

 だって、マテスの適正魔法は確か、空間、だったから。

 ……その空間魔法で、主人公を誘拐して、空間ごと主人公の体を……よし、このことはとりあえず、忘れよう。


「……そう、なんだ」

「ま、まぁ、適正魔法があれば、俺が教えるから」

「ほんと!? 約束だよ!」

「あ、あぁ」


 俺はマテスに適正魔法が空間しかないことを知ってるから、そう約束した。

 もし、マテスに水の適正なんかがあったら、絶対に引き受けなかった自信がある。だって、ただでさえ、あんまりイカレヒロインとは関わりたくないんだから。……家の都合さえなければ、とっくの昔に逃げてる。……出会ったのめちゃくちゃ最近だけど。

 

「りおんくんは、何の魔法適正があるの?」


 そして、突然、マテスはそう聞いてきた。

 まぁ、子供なんて、突然色んなことを聞いてくるものだよな。……俺前世で子供がいるどころか、結婚……彼女すらいなかったけど。


「俺は見ての通り、水と闇、あとは、炎だよ」

「闇魔法とか、光魔法って、お父様がめずらしいって言ってた! 何が出来るの?」


 俺はそんな悲しい過去を思い出しながら、答えた。

 すると、また新たな質問が生まれた。

 何が出来る、か。……そうだな、マテスに分かりやすいように、簡単に言うと、あれ、だな。


「光魔法は友達をいっぱい作れて、闇魔法はめちゃくちゃ強い友達を一人だけ作れる、かな」


 他にもいっぱい違いはあるんだが、この説明でいいだろ。


「……? りおんくんは一人しかお友達がいないの?」


 すると、わざわざ光魔法と闇魔法のできることを分かりやすく教えてやった俺に対して、マテスは俺の心にナイフを刺してきやがった。

 ……前世で友達は0人。そして今世でも、今のところ、友達と言えるような存在はいない。……ただ、そんなの時間の問題だ! この人生に一度しか使えない闇魔法の奥義を使えば、一人は作れるんだからな!

 ……はぁ、魔法に頼って、自力で友達を作ろうとしない時点で、俺の程度が知れるな。


「いや、そんなことないよ」


 ただ、俺はすまし顔でそう言った。

 だって、今は友達0人だからな! 一人もいないんだから、嘘はついてない!

 

「そうなんだ、良かった。りおんくんも、友達、いるんだね」


 え、やめて? 

 と言うか、え、マテス、友達いるの? え? 俺と同じ、三歳児だよね? もういるの? どこで出会ったの? まだ、パーティーとか、参加出来ないよね? 

 ……はぁ、何俺は三歳児に嫉妬してるんだ。

 そもそも、俺が三歳児と友達になれないのなんて、当たり前なんだよ。中身何歳だと思ってるんだ。

 

「そんなことより、俺が面白い物語を聞かせてやるよ」

「ほんと!?」

「あぁ」


 これ以上友達の話題を出されたくなかった俺は、そう言った。

 幸い、日本にはいっぱい物語があったし、適当にそのどれかを聞かせればいいだろ。

 そう思いながら。

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