最強の裏ボス様を超える

「リオ、大丈夫?」


 俺が太陽の眩しさをウザがっていると、メイドが母さんを連れて、戻ってきてくれた。

 

「だい、じょうぶに、見える?」

「全然見えないわ。すぐに治すわね、リオ」


【我が愛しい子の傷を癒しください】


 さっきまでの、のほほんとした様子とはうってかわり、真剣な表情で母さんが俺に手をかざしながらそう言うと、俺の傷が緑っぽく光っていき、痛みが引いていくのが分かった。

 そして、治療に集中している母さんに喋りかけるのもどうかと思って、ボケーっとしていると、ふと、母さんを連れてきてくれたメイドと目が合った。

 そういえば、このメイド、名前、なんなんだろうな。……俺はメイドのことを心の中でしか呼んだことないし、知らないな。毎日、稽古終わり、仕事だとしても、タオルと水を持ってきてもらって助かってるんだし、名前くらい、後で聞いておこう。


「母さん、ありがとう、もう、大丈夫だよ」


 そして、俺は傷が完全に治って、痛みが消えたところでそう言った。

 

「良かったわ。それと、今日もお昼にラナー伯爵がマテスちゃんを連れて遊びに来るから、よろしくね」

「……俺、稽古で疲れてて、ちょっと、無理……かも」

「大丈夫よ。ちゃんと治したでしょ?」

「は、はい」


 俺が嫌そうな様子を見せると、母さんは笑みを深めて、そう言ってきた。

 あぁ、嫌だ。あの子と関わりたくない。将来、俺が食べられたらどうするんだよ。……俺が人を食べるような人間にならないように、教育、したらいいのかな。……でも、説明文には生まれながらにしてイカれてる的なこと書いてたしなぁ。

 ……まぁ、俺が強くなって、マテスに食べられないように警戒しておけば、大丈夫か。

 …………俺、将来のマテスより、強くなれるか? いやいやいやいや、俺は何弱気になってんだ! 裏ボス様と話せるようになるには、裏ボス様を超えなきゃダメなんだ。将来のマテスは確かに強いけど、裏ボス様と比べたら、天と地ほどの差だ。俺は最強になってやる。今、最強の裏ボス様を超えて、それで、裏ボス様を落として、付き合ってもらうんだ!

 ……まぁ、それは無理でも、最悪、推しなんだから、喋るだけでも、したいし。


「それじゃあ、ラナー伯爵が来るまでは、お風呂に入って、後は部屋でゆっくり休みなさい」

「はい」

「それじゃあ、アイナ、よろしく頼むわね」

 

 俺が頷くと、母さんはメイドにそう言って、屋敷に戻って行った。

 アイナって言うのか。……アイナさん。さん付けはダメだよな。俺は貴族なんだし、ちゃんと呼び捨てにしないとアイナに迷惑がかかる。


「着替えはこちらでご用意させていただきます。お体も、お洗になりましょうか?」

「……いや、一人でいいよ」


 いくら幼児とはいえ、女性に裸を見られるのは恥ずかしいから、俺はそう言った。

 三歳児ではあるけど、一応、日頃の行いのおかげで、最近一人で入ることを許されたから。

 

「お風呂、入ってくるね」


 頭を下げてくるアイナを後にして、俺はお風呂に向かった。

 マテスが来ることに憂鬱な気分になりながら。

 確かに、裏ボス様より強くなって、最強になる決心はしたけど、出来れば、ヒロインとは関わりたくない。俺には、裏ボス様が居たらそれでいいんだから。

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