単純に、俺のことが嫌いなんだ

 ……まぁ、やってやるよ。裏ボス様と仲良くなる第一歩だと思えば、そんなの苦でもねぇよ。


 昨日、そんなことを思った俺をぶん殴りたい。

 俺は父親に腹を蹴り飛ばされ、宙を舞いながら、そんなことを思った。

 

「がっ、ごぼっ」

「……やめるかい? リオは才能がある。そんなに急がなくてもいいんだよ?」


 地面に小さな体で転がり終えたところで、父さんは昨日同様、諭すように、そう言ってきた。

 頭おかしいだろ!? いくら諭すためとはいえ、ここまでやるか!? いや、昨日の夕食の時の会話で、俺がどんな怪我をしようが母さんが治してくれることは分かってる。でも、だからって、実の息子をここまで痛めつけられるか!? ……いや、俺が大事だからってのは、ちゃんと伝わってくるんだけどさ。


「まだっ、やるっ!」


 父さんの俺を心配する気持ちは伝わってくる。それでも、腹を蹴り飛ばされたことには変わらないから、俺は父さんを睨みながら、タオルと飲み物を持って駆け寄ってこようとするメイドを手で制して、そう言った。


 そして、俺が立ち上がった瞬間、今度は俺がギリギリ反応できるような速度で、木剣を振り上げてきていた。

 俺は咄嗟に持っていた木剣で頭を守るように、ガードした。

 ガードした、そのはずだったのに、そのまま俺は吹き飛ばされた。

 ……大人と子供。なんなら、大人と幼児だ。……やりすぎだろ。え? もう俺の事嫌いなんじゃないのか? 俺の勘違いだったのかもしれないわ。俺の事が大事だからやってるのかと思ったけど、嫌いなんだわ。もう単純に。

 

「……一応言っておくけど、リオの事が嫌いだから、こんなことをしているわけではないからね」


 俺がそう思っていると、まるで俺の心を読んだかのように、父さんはそう言ってきた。


「こ、れっ! 意味、あるの?」


 昨日までは、まだ、剣の稽古や、魔法の稽古が出来ていた。だからこそ、まだ、強くなっている実感は沸いた。

 それに比べて、今日は厳しくなっただけで、強くなっていっているとは到底思えなかった。だって、俺はただボコボコにされてるだけで、剣はどころか、魔法だって、使えてない。


「その辺は大丈夫だよ。僕も自分の父親にこんな稽古をされた時は、リオのように思ったからね」


 これ、まだ会ったことねぇけど、俺の爺ちゃん譲りなのかよ!

 ……クソがっ。ほんと、なんだろうな。……信じるからな、父さん。……これで、裏ボス様に近づけるなら、安いもんだ。

 





「今日はこの辺にしておこう」


 横たわる俺の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。

 俺は何も反応出来ない。身体中が痛くて、喋る気力すら起きないからだ。


「レイを呼んできてくれ」


 そして、控えていたメイドに父さんはそう言うと、仕事をするために、そのまま俺を置いて、屋敷に戻って行った。

 メイドも俺の母さん……レイ・パレスを呼びに行ったから、俺はそのまま、庭で痛みに苦しみながら、一人になった。


 ……普通、こんなボロボロの息子を一人置いて行くか? ……いや、もう俺の常識なんて通用しないのは分かってるけどさ。

 あぁ……太陽が眩しい。

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