確信

「あ! いた! あのね! お父様がね、りおんくんとあしょんでこいって!」


 俺が色々と考えていると、今まさに俺を悩ませる元凶の幼女、マテス・ラナーがそう言って、こっちに向かってきていた。


 正直に言うと、聞こえてないフリをして、この子の前からこのまま走り去りたい。

 でも、そんなことをしたら、俺が父さんに怒られてしまう。

 この子……マテス・ラナーも、俺と同じ貴族の娘で、爵位も同じ伯爵だから、下手なことは出来ないんだよ。


 そして俺が逃げられないでいると、マテス・ラナー……もうマテスでいいや。マテスは俺の前まで来て「昨日の見せて!」とせがんできた。


 昨日の、とは、俺があのイカレた幼馴染ヒロインとは知らずに、水の魔法で小さな龍を作って喜ばせた時のことだろう。

 マジで後悔しかない。……いや、まだあのイカレたマテスと決まったわけじゃないんだけどな。……でも、その可能性が少しでもあるなら、気に入られることは避けるべきだった。

 はぁ……こんな時、無駄に俺のスペックがいいことが悔やまれる。……多分だけど、どんなにクソゲーであっても、主人公、だからだと思うけどさ。……い、いや、まだあのクソゲーの世界とは決まってないけどね!


「はい、これでいいかな?」


 俺は内心の憂鬱な気分を隠して、そう言いながら、昨日みたいに指先から水を出して、小さな龍を作りだした。

 

「すごい! すごいよ! りおんくん!」


 すると、そう言って、マテスははしゃぎ出した。

 ……やっぱり、この世界はあんなクソゲー世界じゃないのかもな。

 そんなマテスの様子を見ていると、俺はそんなことを思った。だって、こんなに純粋な子が、あんなにイカレてるわけが無いと。


 そう思っていると、俺が指先から出していた小さな水の龍がマテスに食べられた。

 ……は? いや、普通、食うか? それ。……いや、子供だから、どうせ何も考えずにやったんだろうけどさ。

 

「おいひいね……りおんくんも、おいしいのかな」


 ゾワッ。

 その言葉を聞いた俺は、背筋が凍った気がした。

 ……ははっ、落ち着けよ、俺。子供が何も考えずに、ただ、適当に言ってるだけだ。


「俺は、美味しくないよ」


 マテス・ラナー、愛する人を食べることが何よりもの喜び。過去に何かがあった訳ではなく、ただ、そう生まれてしまった哀れな少女。

 ……確か、紹介文にそう、書いてあったよな。

 そんなことを思い出しながら、俺はそう言った。


「そうなの?」

「……あぁ、そうだよ」


 やっぱりここ、あのクソゲー世界だろ。

 そして、俺はそう言いながら、そう確信した。

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