お隣さんと一緒にお風呂

//SE足音


「なんか、こうしてあなたと二人で一緒に帰り道歩いているのって不思議な気分ね」


「いつもだったら、途中でばったり出くわして、成り行きで一緒に帰るくらいなモノじゃない」


「なのに、今は行きも帰りも一緒なのよ? なんだか無性に変な感じがするわ」


「どうしてそんなに肩を落とすの? 今の話にネガティブな所なんて一個もなかったわよね?!」


「あっ、もしかして一緒に帰るのなんて嫌だって言われた気になったの?」


「随分被害妄想が激しいのね、って言いたいところだけど……、しんどいのが続いてるときって、そういう風になるのよね。私も憶えあるから分かるわ」//共感のこもった声


「でもそもそも私はこの後家に帰ったらあなたと一緒に買ってきたお酒を飲むのよ? 約束したじゃない」


「もしかして忘れてたー?」//からかうような調子


「ひどーい。私は楽しみにしてたのに。あなたと一緒にお酒飲むの」


「それもこれも連勤続きで疲労が溜まってたのが悪いのよねー!! じゃあ、今から競争しましょう!! どっちが先に家に帰れるか!! 罰ゲームはそうねぇ……、負けた方は勝ったほうの家に上がりこんで酒を飲む!! これで決まりね!!」


「それじゃあ、よーいっ!! ドンッ!!」


//SE走る音




「ふふふっ……!! ふははは……、あーははははははっ!! 私の勝ちー!!」


「じゃーほら、行くわよ。早くあがりなさいな!!」


「大丈夫、私はあなたのことをじゃけんに扱ったりしないから!! さぁ、早く入って!! 入りなさいな!!」


//SEドアの音

//SE靴を脱ぐ音

//SE物を置く音


「私片付けとかおつまみ作りとか色々するから、お風呂沸かしてもらってもいいかしら?」


「うん、それじゃあお願いね」


//SE包丁の音

//SEフライパンを振る音

//SEシャワーの音


「あれ? もうお風呂の用意出来ちゃったの?」


「あっ、本当だ、もう三〇分以上経っちゃってたんだ……。気づかなかったわ」


「折角だしあなたも家でお風呂入っていきなよ!! ほらほら、遠慮しなくていいから!! ね?」//少し不自然にテンションが高い感じ


「もうっ、ごねないごねない!!」


「あっ、それとももしかして……、私に脱がせて欲しいとかぁ?」


「そうそう、それでよろしい……!!」


//SE風呂場のドアが閉まる音


「さてと……、」//覚悟を決めた声色





「し、失礼しまーす。お背中流しにお伺いしましたー」//緊張で声が上ずっている


「なっ!? 何よ!? そんなに飛び上がって驚くことないじゃないっ!! ここは私の家なのよ!?」


「えぇっと、その……、あなた温泉の時、混浴じゃないことを随分残念そうにしてたじゃない……?」


「だから、その、ちょっとは喜ばせてあげようかなーなんて、思っただけよ。本当に、それだけ、なんだから……。だからほら、こうやってちゃんと水着だって着てるでしょ?」


「あ、あんまり見ないで……、最近は体形をちゃんと整えてないから、ちょっとだらしないし……、それに水着のほうも着るの久しぶりだからサイズあってるかどうかちょっと怪しいし……」


「いいからほら!! 背中流すわよ!!」


//SEワシャワシャ音


「どう? かゆいところとかある?」


「そう……。それじゃあ……、気持ちいい?」


「そっか……、じゃあ流すわね」


//SEシャワー音


「うん……、これで良し」


「えっ? いっ……、いらないっ……!! 流石に恥ずかしいし、自分で洗うわ……。湯船、先入ってて」


//SEワシャワシャ音


「ねぇ、私あんまり見ないでって言ったよね?」


「じゃあなんでそんなに見てくるのよ……」


「見ない努力をするのが難しいって……、もう少し自制心を強く持ってほしいんだけどなぁ……」


「うっ、うぅ……、確かにそりゃ、こんな状態で見るなと言われた男が素直に従えると思ってたわけではないけどさぁ……、その……、限度ってものがあるでしょ? 限度ってものが……」//恥ずかしがって体を隠そうとしている


「げ、限度が吹っ飛ぶほど魅力的だからしょうがないとか……、そんな変なことを言うなっ……!!」


//SEシャワー音


「ほらほら、端に寄りなさいよ。狭くて私が入れないじゃない」


「それから後ろ向いてて。正面から見られるのってかなり恥ずかしいんだから……!!」


//SE水の音


「でも、これでわかったでしょ? 私がここまでしてるんだから、あなたはただの代わりの効く社会の歯車なんかじゃないのよ。少しは自信を持ちなさい。あなたは特別なあなたよ。いつも一生懸命頑張って、働いてる。頑張って生きてる」//体を密着させているニュアンス


「私あなたのこと好きよ。好きじゃなかったら上がりこんで一緒にお酒なんて飲まないし、一緒に温泉入りに行ったりしないし、こんなこと出来ないんだから……。だから、信じていいよ」


「もー、なんで泣き出すのよ」//少し困ったように


「しょうがないなあ……。いいわよ、好きなだけ泣きなさいよ。私が慰めてあげるから」//すごく優しく


「ほらほら、いい子いい子。いっつも頑張ってるわ。夜遅くまで頑張って、休日返上で頑張って、心を擦り減らせて頑張って、誰に褒められることもないのに頑張って、上司に怒鳴られながら頑張って……。今までよく頑張ったね。これからはもう頑張らなくっていいなんて口が裂けても言えないけど、でも泣き言ぐらいは言っていいんだよ」


「それに今までいっぱい頑張ったんだから、少しくらいご褒美を貰ったっていいんだよ」


「大丈夫安心して。私はどこにも行かないからね」//耳元で優しくささやく



「どう? 少しは落ち着いた?」


「そっか、良かったよ」


「うん、気にしないでいいよ。情けない姿見ちゃったくらいで冷めるような薄情な人間ではないつもりだし……、もしかしてそう思ってた? だとしたらショックだけどね」


「ふふ、冗談だよ、冗談。じゃあ、お風呂上がって一緒にお酒飲もっか? 酔っぱらって楽しくなっちゃお?」

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