第27話 大混乱の強襲
窓を突き破って強襲してきた襲撃者は全部で五人。廊下で待機している三人の護衛と力を合わせれば勝てないこともないだろう。
「皆さん! 敵襲です!」
「了解。すぐにそちらに向かう!」
僕は耳に着けてあった骨伝導イヤホンという物で廊下の三人に協力を求めた。この技術に驚きたいところだが、そんな暇もなさそうだった。
襲撃者たちが次々とこちらに向かってくる。その手にはなんと銃を持っていた。
「危ない! 避けろ!」
黄昏さんが咄嗟に身をひねってギリギリで放たれた銃弾を避けた。
「東雲! 応戦するぞ! 銃を持て!」
「はい!」
僕と黄昏さんはすぐに銃を構えた。麻酔銃でも電撃銃でもない、本物の拳銃だ。今回は特別に拳銃の使用が許可されていた。
四日間の修行で僕は拳銃の扱い方をこの身に叩き込んだ。今ならできるはず。今度こそ人を守れるはずだ。
襲撃者の一人が再び銃を撃つ。僕はそれを避けつつ、転がり込んでソイツの横に回り、銃でソイツの手を撃った。
弾は命中し、赤い血が飛び散った。やっぱり人を傷つける感覚は気持ち良くないが、それよりも人が目の前で殺されることの方が僕は嫌だった。
僕は罪悪感を振り払い、銃を落としたソイツの首元に手刀を打ち込んで気絶させた。
「東雲! 避けろ!」
黄昏さんに言われて振り返ると、今度は女の襲撃者が僕を狙っていた。
銃が放たれる寸前のところで倒れこんで攻撃を避けて、そのまま足目掛けて銃を撃って反撃した。
女が体勢を崩したところをすかさず黄昏さんが追撃して気絶させた。
「こっちも大方片付いた。ヘリから来た奴らはこれで全員だな」
いつの間にか三人を倒していた黄昏さんが言った。だが、
『大変です! 車がホテルに突っ込んできました!』
耳のイヤホンから地上の護衛の人と思わしき声が聞こえてきた。
「はぁ!? 一体どうなっているんだ!?」
『ホテル前の警備を強引に突き破って、ホテル内に侵入してきました! さらにその後大量の車が来て、そこから二十人近くが現れ、今交戦中です!』
とんでもない事になってしまった。襲撃はハッタリどころではなかった。むしろ、最初からただの悪戯だと思わせるような脅迫の形態や今日までの一切の無干渉など、僕たちが油断するように誘導されていたような気さえする。
割れた窓から下を見ると、やはり襲撃者と護衛の人達が戦闘を繰り広げていた。でも、人数差は圧倒的に襲撃者の方が多い。やられてしまうのも時間の問題だろう。
「クッソ…、どうすれば!?」
黄昏さんが頭を抱え込む。地上の襲撃者がここまで登ってくるのも時間の問題だ。でも、ここは地上十五階。そう簡単に飛び降りることができる高さではない。
この建物の入り口は一つだけ。そこには襲撃者が殺到している。
正に八方塞がり。そんな状況だった。
「…いや、もしかしたら」
ふと、僕はある作戦を思いついた。そしてイヤホンで下の階を警備している人に確認する。
「もうホテル内に襲撃者は入ってきていますか?」
『いや、まだだ。入り口を張っていた者たちが時間を稼いでくれている。だが、多分持ってあと三分だ。俺も今から加勢に向かう。そっちは神宮さんの護衛を!』
まだホテル内には入ってきていない。ならアレができるはずだ。
「黄昏さん、下の階に移動しましょう!」
「何か策があるのか?」
「はい。とにかくまずは下に!」
僕たちは急いで移動を始める。そして三階まで下ったところで、ホテルの入り口とは反対側の部屋に入る。
「東雲、お前まさか…」
「ここから飛び降ります。それしか手は無いでしょう」
「ここから飛び降りるって…、私は反対だ! さすがに危険すぎる!」
神宮さんが怯えた様子でこちらを見ていた。
「僕が神宮さんを抱えて飛び降ります! そしてあの下にある車の上に着地できれば無事でいられるはずです!」
前に九十九さんが言っていた。僕の体は特別強いと。それなら人一人抱えて飛び降りても大丈夫なハズだ。今はそれに賭けるしかない。
「…分かった。お前らが飛び降りた後に俺と秘書も飛び降りる。東雲、日和るなよ?」
黄昏さんが挑発してきたので、僕は満面の笑みでピースサインを返してやった。
『くッ…、申し訳ありません! 中に入られました!』
イヤホンから声が届く。同時に、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「今飛び降りれば入れ違いになれる。チャンスです! 神宮さん、行きますよ!」
「仕方ない…、君に委ねるからな!」
神宮さんが目を閉じる。彼が小柄だったこともあり、難なく抱えることができた。
「よし…、行くぞッ!」
僕も覚悟を決め、開けた窓から飛び降りた。
何とかギリギリのところで車の上に着地できたようで、僕も神宮さんも無事だった。
「東雲! 俺たちも降りるからそこ退け!」
黄昏さんが慌てて言う。僕たちは急いで車をどいて、そこに黄昏さんと秘書も無事着地した。
「早くここから離れるぞ。応援はもう呼んであるそうだ。今こっちに向かっているらしい。俺について来い!」
黄昏さんが走り出した。それに僕たちも続く。
「おい待て! 俺たちも同行するぞ!」
後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはビリーさんとシュトラウスさんが来ていた。
「二人とも、無事だったんですか!?」
「何とかな。銃撃戦はマフィアの頃に随分としていたからな。タマ避けるのは慣れているんだ。あと、お前らの作戦が聞こえてきたから、激戦の中をこっそり抜け出してこっちに向かっていたんだ」
ビリーさんが説明してくれた。二人とも多少の傷はあるが、そこまで大きな怪我はしていないようだった。
「お二人とも、頼りになります!」
少し走ると、頑丈そうな装甲に覆われた屈強な車が現れた。
「さあ乗れ! 早く!」
僕たちは急いでそれに乗り込んで、ホテルから離れた。
「どうやら十四階の幹部たちも違う所から飛び降りて無事らしいな。無駄にアイツらが車を増やしてくれたお陰だ」
黄昏さんが皮肉めいた口調で言った。
「このままシェルターまで向かう。流石にシェルターなら手出しできないだろう」
運転手が言う。黄昏さんによると、シェルターは内側に鍵がついていて、鍵をかければ外からは絶対に開けられないらしい。
「これで、一安心ってことか…。ハァ、疲れた…」
神宮さんがため息をつきながら言った。周囲を警戒しながらも、僕たちは戦いに勝ったかのような気持ちになっていた。
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設定こぼれ話
ビリーとシュトラウスは本場の銃撃戦を何度も潜り抜けてきているので、経験値はずば抜けている。彼らの体には数多の戦場を生き延びてきた傷跡が刻まれている。
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