東京大決戦・開戦

第26話 開幕

 十一月十五日。ついに、神宮さん達の選挙の日がやってきた。ちなみに僕は黄昏さん達に選挙について説明してもらったが、やっぱりよく分からなかった。

 今日まで護衛をしてきたけれど、襲撃はおろか、悪戯の一つもされない極めて平和な日々だった。見たところ神宮さんは特に悪いことをやっているようでは無いし、襲撃する理由も無いように見える。そんなに彼が嫌いな人達なのだろうか、革命軍というのは。


「皆、今日はついに選挙当日だ。襲撃が本当に行われる場合、今日である可能性が高い! 今まで以上に細心の注意を払って警備に当たること!」


 シュトラウスさんが護衛の人達に説明した。仮に襲撃が起きたとしても、護衛は僕たち四人に加えて、その専門の人達も集まり、合計で十五人ほどいた。これだけプロが集まっていれば返り討ちにできるだろう。

 シュトラウスさんによると、選挙の候補者は、選挙当日は呼び掛けなどの活動ができないらしい。だから、今日は神宮さん達は安全なホテルで待機し、そこを僕たちで警備するとのこと。


「今から神宮さんと党の幹部がホテルに移動する。護衛対象と警備員はそれぞれ二人ずつで車に乗り込め」


 シュトラウスさんの指示で護衛の人達が次々と車に乗り始めた。


「レイメイ君、私の護衛をお任せしてもいいかな?」


 突然、僕は神宮さんに声をかけられた。彼の車にはまだ護衛が乗っていなかったので、僕と黄昏さんで乗り込むことにした。


「…神宮さん、正直に聞いていいですか? どうして皆さんは革命軍から脅迫を受けているんですか? その、何か悪いことをしたんですか?」


 車の中、僕は気になってつい聞いてしまった。黄昏さんが厳しい目で僕を見ていた。


「…ふむ、私たちは一切、悪事という物は働いていない。だが、どうやら我が党に関するあまり良くない噂が広がっているみたいでね…」

「噂? その噂というのは一体どんな物なんですか?」


 隣の黄昏さんが聞いた。あんなに怖そうな顔してたのに、やっぱり黄昏さんも興味あるじゃないか。


「それが、『環境エネルギー党は生物実験を行っている』とか、『環境エネルギー党が新エネルギー開発のために自然を破壊している』という根も葉もない噂話でね…。正直困っているよ。私たちは環境に配慮しつつ持続可能なエネルギー事業をより広めるのが目標だ。そのために生物の命を犠牲にすることも、環境破壊もあってはならない」


 神宮さんは志のこもった声で語った。身に覚えのない噂を広められても堂々と立ち向かえるその姿はとても頼りがいがあった。


「成程…、ということは、革命軍はその噂話を真に受けてこのような凶行に走ったと」

「そうだね…。まあでも、噂を信じる人よりも、それでも我々を支持してくれる人の方が多いんだ。そんな人たちのためにも、私は負けるわけにはいかないんだ」


 神宮さんが固い決意を口にする。そしてどうやら目的のホテルに着いたようだ。シュトラウスさんによると、このホテルの警備はとても信頼できるらしく、ここにいれば襲われる心配はないらしい。


「幹部達は十四階、神宮さんは十五階だ。地上入り口の警備に六人、十四階の警備は四人、十五階の警備は五人だ。いいな?」


 今度はビリーさんが指示を出していた。あんなふざけた人でも真面目にやる時があるんだなぁと感心した。


「レイメイ、お前は神宮さんに信頼されてるみたいだから、黄昏と共に十五階の警備を頼む」

「了解です!」


 僕と黄昏さん、神宮さんとその秘書、三人の護衛でエレベーターに乗ってグイーンと十五階まで登る。このエレベーターの、一瞬体が浮くような感覚が何気に好きだったりする。


「よし、着いたな。我々は廊下の警備を行う。君たち二人は中で神宮さんの護衛を頼む」


 護衛の一人に言われ、僕と黄昏さん、神宮さんと秘書で部屋に入った。


「ふぅ、ここまで来れば一安心だな」


 黄昏さんがソファに座って一息ついた。ソファは黄昏さんの体をしっかりと受け止めていて、ソファに沈み込むように座るその姿はとても気持ちよさそうだった。


「流石に十五階までは来られないだろう。強行突破しようとしても護衛が何人もいるからな」

「そうですね。これで安心です!」


 そう言って僕たちは油断してしまっていた。それが仇となってしまった。

 外から大きな音がした。窓を見ると、外から四角い箱の上に竹とんぼのような物を付けた奇妙な物体がこちらに近づいてきていた。


「…ヘリコプター? ここの上にヘリポートでもあるのかな?」

「…ッ! 神宮さん、危ないッ!」


 黄昏さんが咄嗟に神宮さんと秘書の手を握って部屋の外へ向かった。僕もそれを見て急いで脱出しようとする。

 ふと後ろを振り返ると、なんとヘリコプターは勢い止まらず、こちらへと突進してきていた。

 そしてついに、ヘリコプターがビルに体当たりして、ホテルと外を分かつ壁に風穴を開けられた。


「えっ!? ちょっと、これどうなっているんですか!?」

「チッ…、まさかヘリコプターでゴリ押ししてくるとは!」


 ヘリコプターから梯子のような物が垂れてきて、それに掴まった人たちが一人、二人、三人と、次々に侵入してくる。


「…こりゃ随分とヤバい事になっちまったな…!」


 黄昏さんが言う。僕たちは冷や汗をかきながら、襲撃者たちを睨みつけた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

設定こぼれ話

環境エネルギー党に関する噂話の出どころは不明である。噂が本当か嘘か、それは党の人間のみが知るところである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る