第25話 捜索再開
十一月十五日。選挙当日。
ナギとケンタは福島県へと向かっていた。
例の銃撃事件以来、ロールが見つかったことから、他の仲間たちも同じく福島周辺にいる可能性が高まったが、同時にその一件でレイメイ及びアマテラスも目を付けられた可能性があったため、しばらく膠着状態にあった。しかし、ようやく福島捜索の許可が下りたのだった。
「見つかるといいけどな。レイメイ君の仲間たち」
「…ああ。だが、ロールさんが撃たれる間際の一言によると、スザンナの身に何かがあった可能性が高い。まあ、今はともかく聞き込み調査だな。レイメイによると、全員髪や眼に特徴があるみたいだから、目撃情報は確実に上がるはずだが…」
二人はまず、打ち上げられたであろう海岸に近い区域での聞き込みを始めた。
しかし、どんなに聞いてみても、そのような話は一切上がらないのである。
「そんな人はこの辺りで見たことがない」「見ればすぐに分かるし記憶にも残るだろうから絶対に見てないって言える」「四十歳くらいの男なら見た」
と、上がるとしてもロールの目撃情報しか無い。不自然なほどに三人が目撃されていないのである。
「…流石に変だな。ロールさんと他の三人は一緒に行動していなかったのか?」
「あるいは…、レイメイが神奈川に流れてきたのと同じように、他の三人も違う場所に流れ着いた…?」
「少なくともロールさんとスザンナちゃんが同じ場所に流れ着いたのは確かだと思う。…やっぱり、ロールさんを殺した組織は只者じゃない。仮にスザンナちゃんに何かしたとして、痕跡を一切残さないのは相当な手練れだ。俺たちももっと気を付けて調査した方が良いかもな」
そこまで言ったところで、ナギは何か閃いたという様子で目を輝かせた。
「そっか! ロールさんがスザンナちゃんに何かあったところを目撃しているにも関わらず生き延びてたってことは、同じようにそれを見たジョン君とカルザ君もその組織に捕まらないようにあえて隠れて生活してたのかも! それなら目撃情報が上がらなかったのも納得できる!」
「成程…、それはあり得るな。じゃあ聞き込みよりも、人気のないところの捜索を優先した方が良さそうだな」
かくして二人は、聞き込みから一転、人気のない場所を中心とした捜索を開始した。念のため最小限の人数の応援を本社に要請した。
「…それにしてもさ、今日ってレイメイ君達の護衛してる神宮さんの選挙の日だよね? 皆無事かな…?」
「少なくとも、今日までは特に襲われたりとかは無かったみたいだぞ。やっぱり革命軍とやらの悪戯だったんじゃないか?」
「そうならいいけど…」
ナギは少し不安そうな表情を浮かべる。そんな話をしながら色々な場所を探してみたが、やはり見つからなかった。
「空き家とかも探したけど、全然見つからないなー。」
「まさかもう組織に殺された…、いや、これは考えちゃダメだ。俺なんかが希望を捨てちまったらレイメイに申し訳ない。…今はただ、俺たちにできることを」
日が昇る前から捜索を行っていたが、既に十時を回っていた。少し休憩しようかと思っていた矢先、ナギはある場所に目星を付けた。
「あの山の中にいたりして…?」
「…なあナギ、一旦飯にしないか? 腹が減って集中力が落ちたら見つかるものも見つからないだろ?」
「まあまあ、ちょっとだけだからさ」
そう言って、ナギは山の方へと走っていった。
「…ッ! おいナギ!」
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山の中は自然であふれていた。山の頂上から綺麗な水が流れ出て、その周囲には草木が生い茂り、人の手に触れられていない自然の神秘という物を感じた。
「空気が美味しいな! 気分が良い!」
「この水…、少し煮沸すればこのままでも飲めそうだな。見たところ山菜もありそうだし、ここで隠れ住むのもできなくはない、か…」
二人は捜索しつつ山を登っていった。だが、中腹あたりまで登ったところでナギが異変を感じる。
「何か、変な匂いがしないか?」
「匂い…、そんなのするか?」
ナギはその僅かな匂いをたどり、移動を始める。ケンタは止めた方が良いと言いつつも彼に着いて行った。
少し移動すると、そこにあったのは小さな小屋だった。非常に小さく質素な作りで、世間から離れて暮らすにはちょうど良さそうな物件だ。
「…家? こんなところに?」
少し驚く程度だったケンタに対し、ナギはその匂いの正体に気付きかけて動揺していた。
「…ヤバい。早く向かうぞ!」
ナギは一気に小屋まで駆けだした。そして小屋の扉を開けて、周囲を見渡す。
「…!」
「ナギ、どうした―――ッ、マジかよ」
それを見た二人の表情が凍り付いた。そこには頭を撃ち抜かれて死亡した八十歳くらいの男性の遺体があった。
「殺人、事件か…?」
「と、とにかく警察に連絡だ!」
ケンタが慌てて警察に通報する。一方でナギは周囲の状況を改めて観察していた。
おそらくこの家はこの老人の物だろう。定年で仕事を退職し、ここで老後を世間から離れて過ごすことを決めたのだろうか。
家の広さから、この人が一人で暮らしていたことはほぼ間違いない。だが、それにしては小物系が少し多い気がする。タンスを開けると、老人の物と思われる服の他に、それよりもやや大きめの服と、同じくらいの大きさだが若干細身の服がそれぞれ数着入っていた。
この家にはこの老人以外にも誰かがいた。そしてまだ生活様式が完全に変えられていない様子を見るに、その人物を迎え入れてからさほど時間が経っていないことも分かった。
さらに、観察の過程で若干だが争ったような痕跡があることにも気が付いた。
それらに気が付いたナギが古びたちゃぶ台の上を見ると、透き通るような色をしたミサンガが二つ、置いてあった。どちらも若干ほつれていて、それを誰かが直している最中だったように思える。
「このミサンガ…!」
ナギは思い出した。ジンがこの前珍しく手芸をしていた時の事。そしてその時直していたレイメイのミサンガ。この二つはそれと色合いがとてもよく似ていた。
「まさか…! ここに誰かいたのか!?」
ナギは頭をフル回転させて、レイメイが言っていた仲間の特徴を思い出した。
「ここにあった服の特徴と合うのは…、ジョン君とカルザ君!」
ナギは一つの答えにたどり着いた。
その時、耳の良いナギは、遠くの方で草が揺れる音がしたのを聞き逃さなかった。玄関の方をよく見ると、人が草をかき分けて通っていったような跡があった。
「まだそんなに遠くない…! ケンタ、追うぞ!」
「お、おう!」
二人は音の主を追って山を下っていくのだった。
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設定こぼれ話
アマテラスといえど、生の死体と遭遇する機会は少ない。社員の中にも一定数、ケンタのように動揺する者もいるようだ。
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