影で動き出す
第24話 東京来訪
四日後、ついに神宮さんの護衛任務が始まる日がやって来た。しばらくは護衛に全力を尽くすことになるだろう。
今は朝の六時三十分。僕と黄昏さん、ビリーさんとシュトラウスさんは駅に来ていた。ここで電車に乗り、東京という場所まで向かうらしい。
家を出発する前、僕は引き出しからミサンガを取り出して腕に着けた。
「東雲? 何だそれ。綺麗な色だな」
「これ、魔王討伐に行く前に皆で作ったミサンガなんです。魔力を吸った糸で作ったから丈夫だと思ったんですけど、ここに流れ着いてボロボロになっちゃって…。それで柊さんが直してくれて、今日久々に着けるんです。これを着けると、皆が応援してくれてるような気がするんです」
「…そうか。そりゃあ、良かったな」
黄昏さんは一瞬表情を緩ませて言った。
駅に着くと、既にビリーさんとシュトラウスさんは到着していた。
「あっちに着いたら護衛隊と合流。あとはあちらの指示に従うぞ」
シュトラウスさんがこの後の行動を説明する。四日間護衛の訓練をしているうちに、シュトラウスさんは比較的まともな方だと分かったので、信頼できる。
「おい、来たぞ」
黄昏さんが言った。前回と同じように、やはり大きな電車が入って来た。
「…なんか、電車に乗るとあの時のこと思い出しちゃうんですよね…」
電車に乗って船長を迎えに行ったあの時の事が思い出された。あの瞬間が思い出されて頭を抱えたが、黄昏さんが肩を叩いて言ってくれた。
「大丈夫だ。今回は前みたいにはならない。そのためにお前はこの四日で頑張ったんだろ」
黄昏さんはそれだけ言って、電車に乗り込んだ。
それで少し安心できて、僕も後を追うように乗り込んで行った。
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電車を降りて駅の階段を上ると、信じられない景色が広がっていた。
横浜以上に数多のビルが建ち並び、いたるところを人が歩いて、車がせわしなく走っていた。
「ここが東京、ジャパンの首都だ。すごいだろう?」
ビリーさんが僕に言った。そういうビリーさんもかなりワクワクしているように見える。
「さ、行くぞ。この人ごみの中だ。死ぬ気でついて来い」
黄昏さんが歩き出した。それに僕たちも続く。でも、物凄い人達がいたので、かき分けて進むのにはかなり苦労した。おまけに黄昏さんの歩く速度がかなり速かったので何度か迷いかけてしまった。
「ハァ、ハァ…、ここか」
しばらく歩いて、ようやく目的地に着いたようだった。僕たちの姿を見ると、環境エネルギー党の人が出てきて僕たちを招き入れた。
「今回は護衛に協力いただきありがとうございます。神宮さんは次期総理大臣になられる器の方だ。何としてでもお守りしなくては」
「お任せください。我々も全力を尽くします」
シュトラウスさんが男と握手を交わした。その流れで僕たちもその人と握手した。
「今日は十四時に演説を行い、それ以外は基本的にこの本部で仕事をされます。なので二時の演説時の護衛以外は当番制で回していくので皆さんは備えていてください」
どうやら今日は自由行動の時間が多いみたいだ。この東京という場所を見て回りたかった僕は黄昏さんに視線で訴えた。
「…行かないからな」
「まあまあ黄昏。レイメイはここに来るのも始めてみたいだし、それにずっとここにいるのも飽きてくるだろう。この周辺だったら行ってもいいんじゃないか?」
ビリーさんも協力してくれた。でも、自分も行きたいという欲望を隠しきれていない。
「ほら、スカイツリーとか近いぜ? 行こうぜ黄昏!」
「…今回はビリーの意見に賛成だ。正直言って実際に襲撃が行われる確率は半々と言ったところだろう。それに、仮に襲撃が行われるとしても、選挙の前日か当日くらいまでは待つはずだ。今日は何も起きない可能性が高い。逆に行くなら今日しかないぞ」
シュトラウスさんも加勢し、三人で黄昏さんに詰め寄る。そしてやっと観念したようで、
「分かった分かった! 行ってやるよ! その代わりくれぐれも気は抜くなよ!」
観光を認めてくれた。
「よっしゃあああああ! 行くぞ東京スカイツリー!」
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テンションが上がりすぎたビリーさんを落ち着かせた後、僕たちは東京スカイツリーに来ていた。
それは他のビル達とは比較にならないほどの高さを誇り、真下から見上げると空の向こう側まで続いているかのように思えた。
「すごい…!」
黄昏さんによると、今からこの塔の展望デッキまで登るらしい。あんなに高いところまで登っていたらそれこそ日が暮れてしまいそうだが、それをあっという間に解決してしまうすごいものがあった。
「ここに乗るぞ」
「これは…?」
「エレベーターだ。これで一気に展望デッキまで行くぞ」
しばらく待っていると、突然壁が真ん中から真二つに開き、中に入れるようになった。
そこに乗り込むと、ドアが閉じて、一瞬体が浮いたような感覚を覚え、数十秒待っていると、驚くべきことにもう展望デッキまでたどり着いていた。
「え? …え? え、え!?」
「どうだ、凄いだろ? だがこっちはもっと凄いぞ」
黄昏さんは歩き出し、僕たちもそれに続く。透明な壁から見えたのは、はるか上から見下ろす東京の景色だった。それはあの数十秒で本当に上まで登ってきたことの証明であり、東京という場所の圧倒的な文明を僕に見せつけた。
「凄い…、もう本当に凄いです!」
「うおおおおおお! 久々に見たけどやっぱり凄いぜ!」
隣を見ると、ビリーさんも僕以上に興奮している様子だった。
その後僕たちは下の階のソラマチで沢山買い物をし、カフェで昼食を食べて本部に戻った。そして演説中もやはり襲撃が行われることは無く、一日目はあっという間に終わっていった。
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設定こぼれ話
レイメイのミサンガにはわずかに魔力が含まれているが、魔法を使えるほどの量ではない。特有の色も魔力によるものである。
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