第23話 お偉い依頼人

 事件の日から一週間程が経った。僕は九十九さんの看病のおかげで心身ともに回復していた。


「…よし、これで大方は大丈夫かな」


 九十九さんが最後の処置を終えて言った。


「ありがとうございます。九十九さんのお陰で良くなりました」

「良いんだよ。ジンからの頼みだったし、なんか昔の友人に似てたからな、アンタ」


 九十九さんが笑っていった。

 昔の友人に似ている。以前時雨さんにも似たようなことを言われた気がする。一体誰と似ているんだろうか。


「処置は終わったか? 終わったら行くから準備しとけ」


 奥の部屋から黄昏さんが出てきて言った。既に会社へ向かう準備を終えているようだ。


「ほら、さっさと準備しな。黄昏は怒らせると怖いよー」


 九十九さんは僕に準備を促すと、そのまま一足先に会社へと向かっていった。


「さ、俺たちも行くぞ」

「ちょっと待ってください! もうちょっとで準備終わるのでぇ!」

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 久々に訪れたアマテラスは少し懐かしくもあった。僕が社に入ると、真っ先に時雨さんと鬼灯さんが来てくれた。


「レイメイ君! もう大丈夫なの?」

「レイメイ、怪我は治ったのか?」

「大丈夫ですよ。バッチリ回復しました!」


 僕がピースサインを突き出してそう答えると、二人は安堵したかのように息を吐いた。


「それじゃあ、まずは柊さんに――」


 僕が柊さんの元へと向かおうとしたその時、社の入り口の扉が開き、黒い服を着た男が何人か入って来た。


「え、あれって…、マジかよ」


 鬼灯さんが驚愕の表情を見せる。彼だけではない。社にいた全員が驚いた表情を浮かべていた。


「依頼ですか? でしたらこちらまでお願いします」


 いつからいたのか、柊さんがその黒服の集団に言い放った。


「了解。じゃあ、そこにいる白髪の彼にも一緒に話を聞いてもらおうかな」


 集団の一人が僕を見ながら言った。


「…え、僕ですか?」

「…仕方ない、レイメイ君、私に着いてきてくれ」


 何故か指名された僕は、黒服集団と共に応接室へと向かうことになった。


「柊さん、なんでこんなにあっさりと僕の同席を許可したんですか? 僕は今狙われてるんですよね? もし彼らがその集団だったら…」

「その心配はいらない。彼らは政府の人間だよ」


 柊さんがよく分からないことを言って、面談が始まった。


「既にご存知とは思いますが一応。私たちは環境エネルギー党の者です。そして私が党首の神宮ヤマトです」


 黒服集団のリーダーらしき人、神宮さんが言った。環境なんたら党など、何を言っているのかさっぱり分からないので下手に口出ししないようにする。


「今回私たちが依頼したいのは、神宮さんの護衛です」


 神宮さんの隣に座っていた黒服が言った。


「成程。ですが何故護衛を雇おうと思ったのですか? ここは日本ですよ? 貴方が何も悪いことをしていない『健全な政治家』なら狙われるようなことは無いと思いますが」


 柊さんもあくまで冷静に返した。このいかつい人たちに一切動揺する様子を見せていなかった。


「それが、先日私たちのもとにこのような文書が送られてきまして…」


 黒服の一人が手紙を取り出した。中を開いたが、漢字が多くて僕には読めなかった。それを察してくれたのか、柊さんが声に出して読み上げる。


「『十一月十五日に行われる選挙への出馬を辞退しろ。さもなくば党首の命は無い。』と。これは一体誰から?」

「恐らく、『革命軍』を名乗る集団です。前々から我々の党に妨害は行ってきていたのですが、ついに本格的な殺害予告を出してきまして…」

「それで、貴方たちは要求に従い出馬を辞退するのですか?」

「そんなことは決してしません。我々は潔白ですし、このような脅し文句で辞退をしたという前例を作ってしまえば、模倣犯が現れ、国が立ち行かなくなる可能性もある。辞退するわけにはいきません。ですが、百パーセント事件が起こらないという確証もありません。なので、こうしてそちらに護衛を依頼しているのです」


 よく分からなかったが、柊さんが簡潔にまとめて耳打ちしてくれた。この人たちは僕たちに守ってもらいたいらしい。


「事情はよく分かりました。ところで、何故この場にレイメイ君を同席させたのですか?」


 柊さんが一番気になっていた部分を聞いてくれた。


「ここに入ってきて、真っ先に目に留まったんですよ。そして思い出したんです。先日白髪の青年が強盗犯を捕まえたという事件を。やはりこちらとしても優秀な者に護衛を任せたい。だから彼を呼んだんだ」


 神宮さんが答えた。彼もこの前の事件の目撃者だったのだろうか。


「…分かりました。では、こちらから優秀な人材を四人ほどそちらの護衛に就かせましょう」

「期間は選挙一週間前になる四日後から、選挙三日後まででお願いします。報酬は護衛が終わった後でまとめてお支払いいたします。では、よろしくお願いしますね」


 神宮さんは僕たちに一礼すると、そのまま帰っていた。


「…さて、四人は決まったね」

「この仕事、誰が担当するんですか? 聞いたところかなり重大そうでしたけど」


 僕は柊さんに問う。その答えはすぐに帰って来た。


「まずレイメイ君と、バディのシュウ君。あとはビリー君とシュトラウス君で行こう」

「…えぇ!? ビリーさんとシュトラウスさん!? あの二人で大丈夫ですか!?」


 僕は驚きすぎてつい叫んでしまった。この重大な任務とあの二人がどうもマッチしない。


「まあまあ。あの二人は護衛のエキスパートでもあるんだ。彼らがいればきっと大丈夫だよ」


 柊さんはそう言うが、僕には不安しか無かった。

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設定こぼれ話

環境エネルギー党は比較的最近できた政党だが、党首神宮ヤマトのカリスマ性もあり、若者を中心にかなりの支持を集めている。

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