第28話 逃走&逃走

 周囲を確認しながら車で走り続けて十分近く経った。未だ襲撃者達が追いかけてくる様子はない。


「どうやら見失ったみたいだな。ここまでくれば安全と考えて良さそうだ」


 シュトラウスさんが余裕そうな表情で言った。多分彼はこれ位の危機を何度も乗り越えてきたのだろう。一種の風格さえ感じられた。


「お前ら、見えてきたぞ。あのビルの地下にシェルターがある」


 運転手が言う。そこには特にこれといった特徴がないビルがあった。隠れるという目的においてはこれ位の方が丁度いいのかもしれない。


「さ、早く入れ。俺はここまでだ」


 車を降り、運転手に礼を言ってビルへと入る。そのまま急いで地下まで移動した。


「これは…!」


 それを見て僕は言葉を失った。目の前には重厚な鉄の扉が六個ほどあった。ビリーさんが取っ手に手を掛けて扉を開こうとしたが、あまりに重いのか甲高い音を立てながらゆっくりと開いていた。


「手伝います!」


 いつ敵に襲われるか分からない。僕もビリーさんと協力して何とか扉を開けた。


「さあ神宮さん、早く中に!」


 黄昏さんが神宮さんと秘書を中に入れる。遅れて僕たちも中に入り、最後にビリーさんが入って扉を閉めた。


「よし、これで誰も入ってこれねぇな」


 ビリーさんは扉のそばにあった小さなパネルに触れた。すると、ガシャン! と大きな音が響き、扉はピクリとも動かなくなった。


「よし、これで一安心だな。内側から鍵を掛ければ絶対に外からは開けられない。そして外の防犯カメラの映像をここから見られるから外の様子も丸わかり。もう襲われることはないだろう」


 ビリーさんがカメラを見ながら言った。カメラに動きはなく、ただただ同じ景色が写真のように映され続けている。


「…これで、安心なのか? ハァ、良かった…」


 神宮さんがため息をついてへなへなと座りこんだ。ここまでかなり切羽詰まっていたし、無理はないだろう。

 …何故だろう。もう安心のハズなのに、何だか胸騒ぎがする。まだ何かとんでもない事が起きるような、そんな気配が。

 皆が安息する中、僕だけは形容しがたい不安感に煽られていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 同日、十時三十分、神宮達が襲撃されたのとほぼ同時刻。

 福島にいたナギとケンタは逃走する何者かを追っていた。


「クッソ、速いな!」


 相手をギリギリ視認できる位には近づいてきたが、あと一歩の距離を詰められない。

 追いかけっこを続けているうちに、いつの間にか山を下りきろうとしていた。


「あの車…! まさか!」


 ナギは山を下り切ったところに車があるのを見て、急いで逃走者に追いつこうとする。

 だが一歩及ばず、逃走者は車に乗り込んでしまう。

 既に運転席に誰か乗っていたのか、車はスムーズに走り出してその場を去って行ってしまった。


「クッソ! 逃げられた!」


 ナギはすぐに切り替え、本社に連絡した。


「捜索を行っていた山で殺人事件発生! 犯人と思わしき者は車で逃走! 車のナンバーは墨田のす、3700の黒のワゴン車! 至急応援を求む!」


 ナギの連絡を受けて、アマテラスはすぐに動き出した。すぐさま警察に通報し、情報を共有した後に防犯カメラによる車両の追跡を始めた。

 そしてその直後、ナギ達の元に一台の車が現れた。


「お前ら、アマテラスだろ? 早く乗れ!」

「岡田さん!? どうしてここに!?」


 車に乗って現れたのは、ジンとつながりのある刑事・岡田だった。ジン、ケンタとも旧知である。


「折角有休取って福島でのんびりしていたのに、柊の奴に丁度良く使われちまった! いいから早く乗れ! 追うぞ!」


 二人は岡田の車に乗り込んだ。そして岡田は法定速度をかなりオーバーした速度で走り出した。


「本部から情報が来た! 例の車は東京方面に向かっているそうだ!」


 岡田が本部からの情報を伝える。


「東京!? なんで東京に向かっているんだ!?」

「まさか…、奴らの本拠地は東京にあるのか…? とにかく早く追ってください!」

「分かってらァ! これでも出せるだけ出しているんだよ!」


 岡田は高度な運転技術で、最高速かつ事故を起こさない運転を実現させていた。


「…え、東京で襲撃事件発生!?」


 スマホで情報を確認していたケンタが叫んだ。


「東京で襲撃!? まさかレイメイ達の?」

「ああ。どうやら神宮さん達環境エネルギー党が泊まっていたホテルが襲撃されたらしい。ホテルにヘリや車で突っ込んだらしくて、もう滅茶苦茶だよ!」


 ケンタがニュースで見た事件の概要を簡単に説明した。


「それって、レイメイ君達は無事なのか!?」

「ああ。奇跡的に死者は出ていないらしい。ただ、かなり大規模にやっているな。どうやらコイツら、例の革命軍らしいが、もしかしてテロ組織だったのか?」


 ケンタは恐ろしい仮説を唱えた。そして、ある結論に至る。


「もしかしたら、まだ何か大きなテロを企んでいるのか? ここまで中途半端な結果で終わるはずがない。…ナギ、東京で犯人を追う時も十分警戒しないといけなさそうだな」


 ケンタが言う。その顔は不安で若干青ざめていた。


「ああ。何もなければいいんだけどな…」

「神宮さん、無事でいてくれ…!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

設定こぼれ話

岡田はアマテラスが解決した事件の後処理にもよく訪れるため、アマテラスで彼を知らない者は少ない。

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