第7話 合格

 目が覚めた時、僕はベッドに寝かされていた。目を開けると、ベッドの隣には柊さんがいた。


「起きたみたいだね。ここは社の休憩室だよ。ごめんね。まさか猫探しがあそこまでの大騒動になるなんて…」


 柊さんは申し訳なさそうに僕を見て、頭を下げた。


「…黄昏さんは? あの人はどうなったんですか?」


 周囲に黄昏さんの姿が無いのを見て、僕は心配になって柊さんに尋ねた。あんな人でも、バディはバディだ。心配せずにはいられない。


「シュウ君は今事件の後処理をしてる。強盗達を警察に引き渡したり、君が大暴れして破壊されたビルや道路の処理とか、色々大変みたい」

「…すいません」


 薄々感じてはいたが、、やっぱりむやみやたらに物を壊すのは良くないみたいだ。


「でも、流石にもうこんなこと起きないですよね…?」

「ん? あーごめん! 実は、ウチはさっきの猫探しみたいなのじゃなくて、強盗捕まえたりみたいな危険な仕事が本業なんだ。だからアレは日常茶飯事だよ」


 柊さんがしれっととんでもないことを口にした。僕は信じられず、五秒くらいぽかんとしていた。


「…って、それ本当ですか!?」

「うん。何なら、反社とか暴力団とか、もっとヤバいのと戦ってるから」


 反社、暴力団、何なのかは分からないけど絶対ヤバい奴だ。どうやら僕はとんでもない会社に拾われてしまったらしい。


「でもやっぱり、私の期待通りだったよ。車に追いつけるほどの走力に、足で無理矢理車を止めてしまうなんて! 普通なら足を失っていてもおかしくないのに、君は軽い外傷だけじゃないか!」


 柊さんは目を輝かせながら僕を見てきた。やっぱり僕はとんでもない人に拾われてしまったみたいだ。


「はぁ…、ただ今戻りました」


 休憩室の扉が開き、黄昏さんが中に入って来た。そして彼はそのまままっすぐ僕の方に向かってきて、


「お前…! よくもあんな無茶をしてくれたな…! しかもその後いっちょ前にピースサインなんかして気絶しやがって…、おかげで後処理は全部俺がやらされたんだぞ!」


 やっぱり、相当怒っている。でも、今回は僕が悪いので素直に謝った。


「まあまあ、レイメイ君も謝ってるし、それくらいにしてあげなよ…」


 柊さんがなだめてくれたお陰で、僕は何とか一命をとりとめた。


「はあ…、助かった…」

「とにかく、レイメイ君。君は合格だ! これからも社員としてよろしく!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 柊さんから合格を言い渡され、僕は喜びの余りベッドから飛び降りて、柊さんと握手をした。が、その後すぐにヤバい会社だということを思いだし、地に足をついた。


「まあまあ、確かにここは危険な仕事をするけど、リスクを下げるためにバディ制を採用してるんだ。シュウ君と一緒なら大丈夫だよ!」


 まあでも、柊さんは僕に住む場所を提供してくれるみたいだし、仲間の捜索と元の世界に戻る手助けもしてくれると言っていた。柊さんはヤバそうな人ではあるが、絶対に悪い人ではない。だから僕は覚悟を決めた。ここでたくさんの人を助けながら、仲間も見つけ出して元の世界に戻ると。


「はい! よろしくお願いします!」


 僕は再び柊さんと固い握手をかわす。黄昏さんはそれを嫌そうな目で見ていた。


「それじゃあ、二人とも今日はもう上がっていいよ。レイメイ君、君にはウチの社宅—社員用の家に住んでもらうね。まだこの世界について分からないことも多いと思うから、シュウ君、彼の面倒を見てやってくれないか?」

「…はぁ!? 何で俺なんですか!?」

「いやー、まあバディだし、君の部屋もともと二人用だし、ちょうどいいかなーって」


 黄昏さんはものすごく嫌そうな顔をしたが、社長の命令には逆らえないと感じたのか、うなだれて、本当に、本当に小さな声で「…はい」と言った。


「明日はいつも通り九時に社に集合で。ゆっくり休んでね」


 柊さんは、僕の足を気遣ってくれて、車いすという物を貸してくれた。黄昏さんがめっちゃ嫌そうに車いすを押してくれる。


「レイメイ君、ウチは面白い人がたくさんいるから、仲良くしてね」


 去り際、柊さんが僕にそう言った。


「面白い人…、曲者の間違いじゃないですか?」


 黄昏さんがすぐに訂正した。

 この社のことはまだ分からないけど、その面白い人たちがどんなのなのかは気になる。

 僕は少し期待しながら、車いすに乗って、夕陽を反射し橙色に輝く横浜の街を進んでいった。


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設定こぼれ話

柊ジンは社員全員を名前の君付けで呼ぶ。そこには彼の感謝と慈愛が込められている。

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