第2話

例えるなら、あれはビーズのようだった。小学校の図画工作でみんなが使う、あの小さなビーズ。

初めて腕を切った夜、腕から生まれた赤いビーズたちは甘く、苦い味がした。そして、そのビーズもビーズの原水も私からしたら美しいものだった。窓から差し込む月明かりに照らされる紅いビーズたち。なんと幻想的なものだろうか。まるで自分が特別な何かになった気分だった。痛みは頭を震えさせ、その副産物は幻想的な宝石。クセになる予感がした。

小学六年生の夜のことだった。そういえば昔教室の床に落ちているビーズを拾って集めていたっけ。


そしてビーズは真珠になった。

気づけば宝石はより大きくなっていた。

真珠は腕の体温に耐えられず溶けだして床へ落ちていく。あぁ。美しい。こんなに幻想的な光景が他にあるだろうか。私だけが見られる、私のための桃源郷。今だけが、私が私を救える時間。

明るい部屋に、血が映る。

後ろを向けば、そこに母がいた。

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