涙の心臓

あぐ

第1話

友達と喋りながら学校に行く、授業をめんどくさいと言いながらも真面目に受ける、あの日々。あの、他愛のないこの世にありふれた日々。私が今心の奥底から、私の何かを犠牲にしてでも取り戻したい日々。海の底に住む魔女がいてくれるのであれば、私だって人魚姫のように声でも聴力でも何を代償に求められても構わない。すべてを捧げてでも取り戻したい日々。この感情は、まさに渇望。


私がうつ病になったのは高校三年が始まったときのこと。いや。私はずっと前からうつ病だった。隠して、隠して、騙して、騙して生きてきた。それの限界が最悪なタイミングで訪れてしまっただけ。

何度死にたいと叫びたかったことだろうか。私のそばにいてくれと、私を愛してくれと何度叫びたかったことだったろうか。この感情も、また渇望。


私は飢えに飢えていた。愛に、己に、他人に、まだ知らぬ未来に、取り返せない過去に、この世の全てに飢えていた。


どうかこの小説を読むあなたが私のこのゆっくりと止まりゆくありふれた心臓の音を聞いてくれるのならば、私はこの小説とも言い切れない物語を紡いでいく。


私の名前は涙。涙と書いて、ルイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る