第9話 なのですに隠されたもの
俺は、自分で言ったことを後悔した。
スクイアットロがパートナーだということを発言してしまうと、彼女達に期待させるということになりかねない。
「これで、うちとソレーラミノーレが本当の姉妹かどうか、
出自とかも、
ラックが知っているかもしれないので、
助かったのです」
彼女達の顔色を見る限り、既に手遅れだと感じた。
言葉にしてしまったものは、どうあがいても通り消せない。
「確信は持たない方がいいと思うぞ?
パートナー解消しているかもしれないしな。
現に、俺がスクイアットロのパートナーなわけだし?」
それに、ラックさんは生きていないかもしれない。
あるいは、行方不明者になっているかもしれない。
その不安よりも、一番大きいのはスクイアットロが教えてくれるかどうかだ。
それに、仮に教えてくれたとしても、彼女達にわかるように話せるのだろうか?
一緒にいる俺も、いまだに通訳できなくて理解を放棄するところがある。
どんなに考えても、俺にはどうすることもできない。
俺は誰かの力になれるならそうしたい。
これで、姉探しとやらができればいいのかな?
「とにかく、だ。
期待しないでくれ。
君達が困っていることがあるなら、
助けてあげたい。
そんな気持ちから、手伝うだけであって、
力になれるという確証はどこにもないの」
コレーラマジョーレが紫色の髪を、かきあげながら答えた。
「姉を見つけてほしいという話だけをして、
期待するということは語っていないのです。
それに、ラックさんは姉ではないかもしれないのですし、
姉だとしても、うちと妹のことは何もわからないかもしれないのです」
姉を見つける目的が、自分が何者なのか知りたいため、か。
俺もそうだ。
俺の目的は、自分が何者なのか解き明かすことと、死に寄せの呪いを解くことだ。
だけど、そんな簡単に俺の実の親とか、俺の正体とかわかるなんて思っていないし、
呪いも解けるかもわからない。
だけど、コンディジオーネさんが提案してくれたんだ。
俺が生まれながらに持つ呪いの正体を突き止めて、呪いを解く方法を見つけようって。
これは決して無駄にできない。
それと同じように、
ソレーラミノーレも、コレーラマジョーレも、
自分のことを知りたいんだ。
そしたら、他人事じゃない。
「自分の出自とか、
ソレーラミノーレの魔法もわかるといいね」
俺は彼女達にそう呟いた。
「と、忘れていたのです。
うちからは、フェブールも属性診断を・・・」
コレーラマジョーレは名前だけじゃなくて、
心も魔女なのか?
属性診断なんて、そんなに受けないとだめなのか?
小学校入学前からでも遅くない気がするが・・・。
だけど、俺も言いたいことがある。
「俺も、気になってしょうがないことがあるんだ。
君たち姉妹は、声が似すぎていて、
口元を見ないとどっちが喋っっているのかわからない」
彼女たちは「え?」と声を合わせて驚いていた。
「ずっと口元ばかりを見るっていうのも、変な感じがするんだよ。
だから、声が似てるっていうのは注意しようがない。
せめて、話し方を変えてくれないか?
例えば、一人称とか、
なのです以外にするとか」
ソレーラミノーレとコレーラマジョーレがお互いに顔を見合わせていた。
「君達は顔も声も似てる。
髪の色とか瞳の色は例外として、
それ以外はみんなそっくり」
しばらく、沈黙が続いた。
俺、言い過ぎた?
怒っているつもりではなかったけれど、俺は謝ろうとしていた。
その時に、
「あたしは、コレーラマジョーレなのですわ」
「うちは、ソレーラミノーレなのですよ」
なのです口調で話すんだ?
「どうして、なのですって言うんだ?
俺は、それがややこしいという・・・」
俺はそれ以上言ってはいけない気がして、話しを止めた。
「わからないのですわ」
「え?」
今は口元を見なくても、誰が話しているのかわかった。
コレーラマジョーレだ。
多分、コレーラマジョーレが「なのですわ」にした上に、
一人称を「あたし」に変えた。
そして、ソレーラミノーレがそのままということ。
「自分でもどうして、このように話すのかわからないのですわ。
ですが、なのですって言わないと、
だめな気がするのですわ。
あたしも妹も、何かに縛られているのですわよ」
縛られているって?
そのことに俺は理解ができなかった。
「生まれた時から、あたしは何かの呪縛があるのですわよ。
それが、わからないのですか?」
「ごめん、わからない」
こんな呪縛があるなんて、聞いたことがない。
「あたし達、研究所育ちの人間は、
何かの呪いを持ち、
それに縛られているのですわ。
死に寄せ、いじめ寄せ、不幸寄せがあるように、
それ以外の呪いを抱えることがあるのですわよ。
やっぱり、何も聞いていないのですわね」
コレーラマジョーレが真剣な表情をしている。
「ごめん、何か気に触ることを言ったかな・・・?」
「謝らなくてもいいのですわ。
あたしが抱える運命とか、知らないのですわよね?」
「知らない・・・」
俺は、どのように返事をするのが正解なのかわからない。
「あたしだって、何の呪縛かわからないのですわ!」
俺はコレーラマジョーレの叫び声に、驚きを隠せないでいた。
歩く死神の魔力 野うさぎ @kadoyomihon
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