第5話 残酷と向き合う意志

「決まりって、何がですか?」


 俺は、戸惑う。

 

「この負の連鎖を止めたいなら、行動するということだ。


何かを変えたいなら、何かをしなくてはならない。


立ち止まっても、何も始まらない」


 俺は、ここで涙が流れてきた。

 今度は、悲しくて泣いているんじゃない。


 コンディジオーネさんは、こんな俺でも受け入れてくれる。

 こわがってない。

 こんな人がいるなんて思わなかった。

 俺は、また歩き出せる。


 そんなことを思っているだけで、涙が出るとか、自分でも自分がよくわからなかった。


「俺、歩き出したいです」


 こうして、牢獄は開かれた。


 だけど、ここで終わりではない。

 そこからが、始まりなんだ。


 コンディジオーネさんと歩いていると、スクイアッットロが廊下にいた。


「大丈夫だったか?」


 いつも、生意気な口調で話すスクイアットロから「お主は、いつまでメソメソしていた?」と言われることを想像していのだが、心配をされることは想定外だった。


「うん・・・・」


 大丈夫じゃないけど、返事だけしといた。

 だけど、これは自信がなくて、弱々しい返事だと思っている。


「そうか。


ごめん、おいらも言い過ぎなとことがあったかもな。


上司に注意されて、気づいたんだ。


おいらは、本当に人の気持ちがわかっていない。


おいらなりに、お主に歩み寄ったつもりだったんだが・・・・、何もわかってあげられなくて、申し訳ない」


「スクイアットロ・・・・」


 俺は、どんな返事と態度をとればいいのかわからなくて、ただ彼の名前を呼んだ。


「スクイアットロも、悪気はないんだ。


彼なりに、わかろうと努力はしている。


世の中には、人の気持ちをわかりたくても、わかれない人もいる。


彼は様々な任務を幼い頃から、過ごしてきた。


だから、多少の残酷なことには慣れきってしまっているのかもしれない」


「はい・・・・」


 俺は、コンディジオーネさんの言いたいことを、半分も理解していないかもしれない。

 人が死ぬことに慣れるわけないって、俺は思っているけど、実際はどうなんだろうか?

 


 ある日の外にいたところに、俺は一人のいじめられっ子を助けようとしたら、不良グループ三人組に絡まれた。

 俺は勝てるわけがなかった。


「嘘・・・・・」


 俺は、恐怖で震えることしかできなくなっていた。

 これだけ強いとか、こいつらは人間なのか?


 どちらにしても、俺は弱い。

 そう、俺はただの落ちぶれ。


「助けて・・・・誰か・・・・」


 俺は、小さな震える声で、助けを求めた。


「はは、なんだか知らねーけど、大人は助けに来ねーよ」


 不良たちは、せせら笑うだけだった。


 不良の一人が、拳を握りしめ、その拳は俺の方に向かっていてー。

 

 俺は、殴られる覚悟でいた。

 その時、


「弱い者いじめは、やめるのです」 


 そこで背中まで長い緑髪の少女が、現れた。

 多分、年齢は俺と同じくらいだ。


「なんだ、お前?」


「はん、女一人が来たところで、どうってことねえの」


「痛い目見ることになるのですが?」


 紫髪の少女の目は、鋭かった。


「やれるものなら、やってみろよ」


「こんな細身の体型の女には、何もできないだろーけどさ」


「うちが、何者か知らないということは、よーくわかったのです」


「なめているのか?」


「なめていますが、それはこれを見ても、図に乗れるのですか?」


 紫髪の少女の人差し指から、小さな炎が現れた。


「ひっ」

 

 不良たちは、怯えていた。


「この火は、これから君たちのところに向かおうとしているのです。

それでも、いいのですか?」


「ひ、すいませんでした」


 不良たち三人は一目散に逃げだした。


「助けてくれてありがとうございます、あの君は・・・・?」


「ただの通りすがりなのですよ。

それよりも、この倒れている人は?」


 この子は、不良グループに殴られて、気を失ったいじめられっ子だ。


「室内に運びます」


 俺は、いじめられて、殴られて、気絶した少年を抱きかかえて、室内に運び、一人の職員には事情を話した。

 職員は、一瞬、顔を真っ青にしていたけれど

「わかったわ」

 と一言だけ返事をしていた。


 何か考えていそうな顔をしていたけれど、何をする気なんだろう?

 どちらにしても、この後のことは、この人に任せておこう。


 その後は、紫髪の女の子と二人になった。


「さっきは、助けてくれてありがとう・・・・。


君の名前は?」


「わからないのです」


「え?」


「うちには、名前がないのです。

生まれた時から、ずっと・・・・」


「それって、どういう・・・・?」


 俺が質問する前に、女の子が先に話し始めた。


「君は?」


「俺も、君と同じなんだ。

名前がなくて」


「名前がないのですか?」


「うん」


「うちは、小さな檻の中で教育も受けられずにいて、名前も、年齢も、誕生日もわからないのですよ」


「誕生日がわからないと言えば、俺もなんだ。

一応、年齢は決まっているみたいだけど」


 俺には、生まれた時から名前も、誕生日もない。

 戸籍もない。

 

 俺だって、名前がほしい。

 だけど、どんな名前がいいのかとか、どうやって名前を作るのとかは、正直わからない。


 変な名前をつけられた子供も、みじめな気持ちになると思う。

 だけど、名前がないことも、俺にとっては、みじめ以外のなにものでもない。


「誰かには、聞いたのですか?」


「聞いても、答えてはくれなかった」


「うちと、同じなのかもですね。


うちの親は誰なのかもわかってないです」


 俺は、何なのだろうな?

 自分でも、わかっていなくて、それなら、誰にもわからない。


 俺は、何のために存在しているのだろうか?


 次の日、不良グループたちは、死んでいた。

 死んでいたというより、何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。


 この場所にいても、大切な命を救えなかったのか・・・・。

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