第23話 男子寮襲撃
クライミングを作り始めて二日。
ようやく完成すると、俺は朱鳥を呼びに女子寮へ向かう。
「芽紅。朱鳥さんは?」
待ち合わせしていた芽紅に声をかける。
「うん。呼んでいるの」
「妾にいったい何ようだ?」
「俺たちと遊ばないか?」
「遊び?」
ピクリと眉根がつり上がる朱鳥。
「俺たちが用意したミッションをクリアしてほしい」
「知らぬ。妾は鍛錬しなくてはならぬ」
「そう言わずに」
「一刻も早く、一人前の武術師になるのだ」
全然聴いてくれないじゃないか。
チラリと芽紅を見やると困ったように笑みを浮かべている。
「もう用はないのだな。なら妾は修行をする」
「ボンバーたこ焼きだとしてもか?」
「なに?」
「賞品がボンバーたこ焼きだとしてもか?」
「ふふ。悪くない。それなら少しくらい参加してみるか」
「こい」
俺は男子寮に向かって歩きだす。
ちなみに心配そうにしていた芽紅と、ついでに夏音までついてきた。
朱鳥は怪訝そうな顔で男子寮の庭にたどり着く。
そこには山のようにそびえ立つ台がある。台にはでこぼこがあり、クライミングができるようになっている。
「して、どうすればいい?」
朱鳥は困ったように眉根を寄せる。
「これの頂上にボンバーたこ焼きの引換券がある。それを手にしたものが勝ちだ」
そう言うと男子がぞろぞろと寮から出てくる。
「お。本当につれてきやがった」
「さすがリーダーです」
そんな声を聞き、俺たちは最終調整に入る。
「芽紅と夏音もやるか?」
「芽紅はやらないよっ♪」
「遠慮しておきます」
二人ともさすがに野蛮なのは苦手か。
「ふむ。この者らを蹴散らせばいいのだな?」
「ああ。理解が早くて助かるよ」
俺は周囲の者を見渡し、こくりとうなずく。
「さ。スタートだ」
一斉にクライミングを始める男子たち。
一歩前へ踏み出す朱鳥。
「はぁああぁぁっぁあぁぁぁ!」
鞘に収めたままの刀を振るう。
横薙ぎに払われた刀は台の一段一段を吹き飛ばしていく。
まるでだるま落としのように。
台につかんだままの男子を吹き飛ばしながら。
「おいおいおい!」
そのままてっぺんを残して台を吹き飛ばすと、台の上にひとっ飛びで乗る飛鳥。
「これをもらっていいのだな?」
「いや。まあ……」
やり方が違えど、クリアしてしまった朱鳥。
「頂くぞ」
そう言って商店街の方に向かう朱鳥。
その足取りはどこかスキップしているように思えた。
「それにしても、いつの間に朱鳥ちゃんと仲良くなったのです?」
夏音は怪訝な顔を浮かべる。
「芽紅ちゃんと仲良くすればいいのに」
「それを言うならハゲくんとなの」
「え?」
「え!」
「「ええ?」」
夏音と芽紅が何やら不思議そうな顔をしているが、俺にもさっぱり分からない。
しばらくして、ボンバーたこ焼きを頬張る朱鳥の写真が、芽紅のSNSに上がった。
まあ、おいしく頂いているようで安心した。
でも、少しだけの間、元気が出たらしく、また塞ぎ込む毎日を送る朱鳥。
ということで、
「今日も鴻朱鳥救出作戦、第二弾をやろうと思う」
「おお! いいじゃねーか。何をさせる気だ?」
「あー。そこはまだだ。ただ」
「ただ?」
「《本格! 白黒焼きそば》を賞品にしようと思う」
「ほう。いいじゃねーか」
「じゃあ、鴻さんにはこの男子寮を襲撃してもらいましょうか?」
「え。そのクラスのミッションを立てるのか?」
俺は驚いてメガネを見やる。
「はい。どっぷりとのめり込んだ方が鴻さんも楽しめると思うのです。策略は得意なのでしょう? 鴻さん」
確かに朱鳥は将棋やリバーシ、囲碁などなど。そういったものが強いと聞く。
でもだからといって男子寮を攻め落とす意味がない。
彼女が興味を持つとは思わない。
「何考えってっか知らねーが、本人に聞いたらどうだ?」
ハゲがまともな意見を言う。
「そう、だな……」
翌日、学校にて。
俺は朱鳥に話しかけようとする。
が――。
「妾は用事がある。すまぬ」
そう言って足早に駆け出すのだった。
避けられている?
なぜ?
「ははは。逃げられてやんの」
ケラケラと笑うハゲ。
「なあムカつくんだが」
「ははは。何バカ言ってんだよ。オレが聞いてやろうか?」
「……。ああ、頼む」
背に腹はかえられぬ。
「け。つまんねーの」
ハゲはそう吐き捨てると、朱鳥に駆け寄る。
何やら話すこと数分。
「やるってよ」
ハゲがそれだけをいい鼻歌交じりにスマホをいじる。
「なになに。鴻さん、一条くんのこと意識しているの~?」
甘い粘っこい声で駆け寄ってくる同級生。
「そんなわけなかろう!」
顔を赤くして否定してくる朱鳥。
あわあわしているが、なぜだ。
あの鴻朱鳥があそこまで慌てふためくのは珍しい。
とにもかくにも、男子寮の防衛戦が決まった。
俺とメガネ、ハントが防衛側。ハゲと混成部隊、それに朱鳥が先行部隊になる。
「さてと。どう攻めてくるかな?」
俺はハントやメガネに視線を送る。
「こっちの都合を理解した上での戦いになるだろう。なら網を張るか?」
「地雷原を作っておくというのもありかもしれません」
「お前ら、本気なんだな」
苦笑を浮かべていると、メガネは顔をこちらに向ける。
「当たり前です。そうでなければ失礼というもの」
「だな。おれらが頑張らなければ、鴻さんをバカにするようなもの」
「なら、
「おいおい。そこまでやるか?」
「本気でなければ失礼、なのだろ?」
俺は苦笑を浮かべて、
「GⅡの起動実験を始める」
俺はかたかたとキーボードを打鍵すると、奥の扉が開く。
「これが、GⅡ。世界を変える力。その根源」
コクピットにガトリング砲二基と、ミサイルポッドを詰め込んだ、大型戦闘用ロボット。
人呼んで「GⅡ」
「本気で使うのか?」
「ああ。俺には勝つ未来しか必要ない」
「だが――」
「GⅡは殺戮マシ―ンだ。知っているさ。そのくらい」
肩をすくめて見せる俺。
「なら、いいのだが……」
「日本的にどうなのだ?」
いつの間にか隣に立っていたゴリラが心配そうにしている。
「ああ。日本なら大丈夫だ。なんでもありな国だからな」
「いや、そういう訳でもないだろう?」
「何を言っている擬人化においてなんの問題もなかった。織田信長なんて何回つかわれたことやら」
「ははは。まあ、ははは」
ゴリラは困ったように笑みを浮かべていた。
「プランはD
「ふ。了解」
「相手の戦力から鑑みるに、襲撃は一度っきりだ。二度目の襲撃はない」
襲撃するにはそれなりの体力と備蓄が必要だ。今回の規模なら一度あればそれで限界を迎える。
「まずは敵陣のルートを解析する。恐らくこのルートを通り、占拠するつもりだろう」
地図を見やり、指を指す。
「この地点と、この地点に地雷を設置する。敵の足をくじくんだ」
「了解。今夜は徹夜になりそうですね」
「わるい」
鼻で笑うメガネ。
「いいですよ。何もしていないよりも、何かをしている方が気が紛れます」
「そういことだ。気にすんな」
「ハント。狙撃部隊はこちらからの攻撃を用意していて欲しい」
俺はハントに狙撃ポイントを指示する。
「ほう。なるほど。いい場所だ。さすがリーダー」
「ふ。ならあとはハントが個々の判断に任せる」
「りょーかい」
ハントはヘッと鼻を鳴らすように声を上げる。
「メガネ、ドローンは何機用意できる?」
「恐らく二十機ほどかと……」
「すくないな。あと三十機ほど購入できるか?」
「今からですか!?」
「そうだ。お願いしたい」
「……分かりました。二徹決まりですね」
クスッと笑うメガネ。
俺の財布を持ってお店に向かう俺たち。
鴻朱鳥の挑戦状が届き、俺たちはいよいよ決戦のときを迎えようとしていた。
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