第22話 見えてきた敵
作戦名『鴻朱鳥を救え!』。
このような作戦を練るのに、民衆の力を借りることとなるとは。
俺には作戦は思いつかなかった。
あの朱鳥に何ができるのか……。
ふと暗い顔をしていた朱鳥を思い出す。
そんなのよくない。
俺は彼女が笑顔であってほしい。
そう願ったのだからしかたない。
「パンツ交換会!」
「くんかくんかし放題!」
「それはてめーらの要望だろ! ちゃんと相手を考えろ!」
ハゲがキリッとした表情で言う。
こいつ、まともなことも言えるのだな。
「オレなら菓子でつるね。そして最後にオリジナルソングで求愛するんだよ!」
ごめん。少しでも見直した俺がバカだったよ。
「んだよ。その顔」
「いいや、続けてくれ」
でも菓子か。
甘いものでも食べれば気分も変わるかもしれない。
一つ考えてみるか。
普通に菓子をあげただけでは満足しないだろう。
ならこいつらを使うか?
菓子争奪戦。
ありかもしれない。
だがそれだけであの朱鳥が動くか?
「一つ提案がある」
「なんだ? 言ってみろ、リーダー」
「菓子争奪戦なんてどうだ?」
派閥争いが起きるたびに行われる争奪戦。
その応用だ。
できないはずがない。
「どういうつもりだ? 鴻を呼ぶのでさえ、大変なんだぞ?」
「わかっている。だからちゃんと支援者も募っている」
最も俺が要請できる支援者は芽紅くらいだが。
「信頼できる相手か?」
ハゲがいつになく真剣な様子で睨んでくる。
「ああ。問題ない」
「そうかよ」
へっと納得いかない様子でうなずくハゲ。
「争奪戦ってことはなにか賞品でもあんのー?」
間抜けな声が共用スペースに響き渡る。
「それが問題だ。俺は鴻朱鳥の好みを知らない」
「じゃあ支援者に聞けばいいじゃん」
「それもそうか」
「おいおい。オレはテメーのことが心配になってきたぜ」
確かに。
こんな簡単な見落としをしてしまうとは。
すぐに携帯端末にメッセを送る。
「好きな食べ物は……」
受け取ったメッセを開くと俺は言葉に詰まる。
「色々とあるみたいだ」
長文でずらっと並ぶ食べ物。
「色々ってなんすっか?」
「大判焼きとか、エビとか、栗きんとんとか、せんべい、羊羹」
「まとまりがねーな」
「おう! ボンバーたこ焼き、買ってきたぞ!」
ゴリラが大きな声を上げて差し入れをくれる、が――
「「「それだ!」」」
ボンバーたこ焼き。
この地区では有名な大きなたこ焼きのことである。
直径が4センチくらいなのが普通だが、このボンバーは直径7センチほどとかなり大きめだ。
加えて中のタコが大きく切られていて味も良い。
これを食べずして
それくらい有名だ。
「じゃあ、ボンバーたこ焼きを賞品にするとして、どんなゲームにするか……」
「台クライミングなんてどうです?」
「それ、楽しいか?」
「下からおパンツのぞけりゅの〜。はあぁぁぁぁっぁあぁぁあぁぁん♡」
一匹頭のネジが取れた奴がいるな。
まあ悪い案ではない。
この争奪戦は跳び箱のように段を重ねていき、隙間に手や足をかけて徐々に上り詰めていくという争いだ。
前は拾ったエロ本を奪い合うためにやったものだ。
今回はそれがボンバーたこ焼きになるという。
それだけでは民衆の心は動かないが、パンツが見える可能性に息巻く民衆は多い。
一応、鴻朱鳥救出作戦ではあるのだが。
まあいい。やる気がでてきたのならやってみせるさ。
「よし。作戦の立案はいい。だが鴻朱鳥が失敗したパターンを考えておきたい」
「確かに。失敗したらどうするんだよ!?」
「だから、それを話し合うと言っている! この馬鹿者!」
しゅんとなる馬鹿者。
「しかし実際失敗はないんじゃないか?」
ボンバーたこ焼きを配りながら歩くゴリラ。
「どういう意味だ?」
「あの鴻朱鳥だ。どんな秘技を持っているか……」
「いやあいつは大会で失敗している。少なくとも良人だ」
「……なら、いいが……」
ゴリラが不安そうな顔を隠すとボンバーたこ焼きを頬張る幾人かのバカ。
「あちゅいぃぃいぃいっぃっぃぃいぃ」
こうなるのは目に見えていたが。
「水飲め」
俺は小さく言うとみんな一斉に水の飲む。
いやいや、中身が熱いのは承知の上だろ?
たく世話のかかる連中だ。
そのあと深夜まで作戦を考えたが、失敗する未来はあまり考えたくない。
だが、あの鴻朱鳥が男子に混じっててっぺんを目指す姿はあまり想像できない。
それに巫女服を着ている朱鳥が下からの視線を気にしない訳がない。
作戦名タッチダウンのときも彼女は一人、防衛に徹していた。
あの身持ちの硬さと、警戒心は凡人にはない。
俺の計画に乗ってくれるかも怪しい。
それでも彼女が笑顔になる可能性が一パーセントでもあるのなら。
やって見る価値はあるのかもしれない。
「ということで、あとはお前の意見が聞きたい」
『そう言われても……。朱鳥ちゃん、警戒心強いからね……』
やはり彼女にとってもそう思えるらしい。
『まあ、でもやってみるよっ♪ 朱鳥ちゃん、心配だし!』
「そうか。分かった」
俺は了承を取ると、男子寮の一角に設けられた施設を見回る。
最近まで使われていなかった台座がある。
急ピッチで作業が行われているが、その高さは十メートルにも及ぶ。
ゴリラの指揮のもと順調に行われている。
「言われた通り、一番上にはボンバーたこ焼きの引換券をおいたぞ」
「おう。それでいい」
「下には落下防止のネットを張っています」
メガネがパソコン片手にやってくる。
「十メートルの高さから怪我一つなく、だぞ?」
「はい問題ありません」
それだけの反発性と強靭性を兼ね備えたネットということか。どこかに軍事利用されそうなネットだな。
それだけうちの開発部が優れているということだ。
「おら。てめーらはさっさと会場のゴミを拾え!」
ハゲが激高を飛ばしながらゴミ拾いをしている。
男子寮が汚いところと思われたくないのだろう。
それは俺も望むところではあるが。
「少しは安めよ」
「リーダーからのお達しだ。良かったな、テメーら」
ハゲの声を聴いてヒーヒー言っていた部下はその場に崩れ落ちる。
いったい何時間働かせているんだよ。
それにしてもみんなが一段となって作戦を成功させようとしている。
これこそが先代の求めていた光景ではないだろうか?
色々と間違えたこともあった。
失敗したこともあった。
でもそれでも俺たちは俺たちの正義を信じていた。
正義だと思いたかった。
いや俺は最初から間違いだと気がついていた。
それでも決行してきた。
俺はリーダーなのに、民衆の総意ばかりを気にしていた。
それだけじゃ駄目なんだ。
ときには民衆の目を覚まさせてやる必要がある。
最初は遊びの一環だったこの作戦も、今や一大プロジェクトになっている。
今度こそ、本当の意味で成功させる。
人を笑顔にするのが夢だったのだから――。
『これよりオペレーション・
その答えはまだ出ていない。
先代の、そして部下たちのみんなに聴いても、もう忘れているかもしれない。
そんな約束。
俺だけが覚えている約束。
卒業生の中の何人が覚えているのだろうか。
俺たちを見てどう思うのか。
それは分からない。
けど胸を張って誇らしく言える日を待っている。
どんなことがあっても、最高の三年間だったと言いたい。
後悔のない生き方をしたい。
準備は整った。
「オペレーション・鴻朱鳥救出を開始する」
俺の声を聞き、民衆は盛り上がる。
支援者と一緒に男子寮を訪れる鴻朱鳥。
その顔はどこか不安げだ。
男子寮がいかに小さくボロくて汚いのか、そんなことを思っているかもしれない。
理事長の娘なら効果あるかとも思っていたが、あの父親だ。無理だろう。
倒すべき敵は朱鳥の父親・
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