第13話 敵
《我々は
メガネの声が鳴り響くなか、俺とハゲ、佐々木、鈴木は武器を並べていく。
俺は対物ライフルを手にして、男子寮の見取り図を並べる。
「敵がどこにいるか、検討もつかない。だが、こことこの場所は重要拠点になっている。ここを制圧することが第一目標になる」
俺が指示するとハゲが粗暴な態度を見せる。
「あ。それで収まるのかよ?」
「いいや。きっとこの二カ所を制圧することは読まれている。だから、彼らはそこにトラップを仕掛けているに違いない。最悪、俺たちが負けることになる」
俺は困ったように肩をすくめる。
「そこで、だ。ハゲには単独で、この用水路を使ってもらう」
「は? オレが下水に、か?」
「そうなる。ハゲが早すぎればメガネは逃げ出す。遅すぎれば俺たちが沈む」
「ひゃは! オレ様の時代が来たってわけだ!」
「ああ。そうだ」
俺はハゲの調子を上げるため、わざとのる。
まあ、ハゲは直情的なところがあるからな。おだてておけば木にも登るだろう。
「さて。作戦会議といこうか」
一番手の俺と、二番手のハゲがいる以上、俺たちは負けない。
戦力差は四対二十だが、やって見せるさ。
「は。てめーと組むのかよ?」
「違うな。俺たちと組むんだよ」
「へ。面白いことを考えるじゃねーか」
にやりと笑みを零すハゲ。
「しかし、どうやるんだ?」
鈴木が困惑した様子で訊ねてくる。
「やりかたなんていくらでもある」
「その通りだ。オレ様だったらできる」
鼻息を荒くして本部奪還作戦を組んでいく。
「いいや、そこはDエリアから侵入するべきだ」
「そうなるとK地区から登るか?」
「ああ。てめーの言う通りだ」
「あとはこちらの奪還時間か」
「だな」
俺とハゲは二人で協力しあい、計画を立てていく。
途中で佐々木と鈴木も交えながら、話は進んでいく。
夜も更けてきて、辺り一面カエルの合唱が始まる。
「作戦名〝オペーレション・テイクバッグ〟開始」
地下を進むハゲと、地上から揺さぶる俺たち。
二手に分かれた俺たちをメガネは逃しはしないだろう。
だが、それでもいい。
話し合える時間さえ確保できれば。
冷静に考えてここで戦力を二分するのは得策ではない。
ただでさえ、こちらは数が少ないのだ。
ハゲは正直、囮だ。メガネが気がつかないはずがない。
それでも戦力をそいでくれるだろう。
何せ、単独で向かわせたのだ。
敵はハゲを注意深く観察しなくてはならない。
少戦力で攻めてくるからには何かしらの策があると考えるべきだ。
だが、今回はその定石を利用させてもらう。
メガネとは何度も作戦を考えたものだ。あいつのクセを俺は良く知っている。
この位置ならライフルを使って狙撃できる。
背中に担いでいた対物ライフルを構え、
発射された弾丸は柱の陰に隠れた男をとらえる。
「終わりだ」
淡々と引き金を引く俺を守るように佐々木と鈴木がアサルトライフルを構える。
長射程な対物ライフルなら会敵することなく敵を葬れる。
だが――。
「お前もそっち側かよ!」
狙撃班のリーダー、
ハントの声は聞こえないが、俺はインカムに向かってしゃべり続ける。
「お前の目的は俺が叶える。絶対にだ」
インカムは死んではいない。むしろ情報を引き出すためにあえてオンにしているだろう。メガネならそうする。
だから話しかける。
「俺はお前の味方だ。メガネ、ハント。そしてハゲたちの」
対物ライフルを投げ捨て、暗闇の廊下を駆け抜ける。
横にある部屋に手榴弾を投げ込み、目の前にいる敵に対してハンドガンを撃ち抜く。
爆破が聞こえると、目の前に照準を向ける。
二人の敵を撃ち抜くと、倒れるのを確認するまでもなく、次の部屋を制圧してく。
中央管理室にたどり着くと、俺はハンドガンをその中にいる敵に照準を向ける。
「降伏しろ! メガネ」
「ふん。一条さんには分からないですよ。鬼才と呼ばれ、女子を次々と陥落させるあなたには」
「何を言っている?」
「この期に及んで言い逃れしようとは。今回の勉強会がいい例でしょう? あなたがイケメンだから、カリスマ性があるから、好かれているから呼ばれたのです」
何を言っているんだ? こいつは。
俺は恐らく芽紅の策略のためのサポートで呼ばれたのだ。
この秘密の関係は広められない。
「っ!」
「ほら、一条さんは他と違うから……」
ふるふると力なく首を振り、諦観を決め込むメガネ。
振り返り、脱出用の通路に足を向ける――と。
「逃がすかよ!」
ハゲが下にあった通気口からはいでてメガネの足をつかむ。
「へぶっ」
走ろうとしたところをつかんだので、メガネは盛大に転ぶ。
メガネのツルが折れて、レンズが歪む。
「ぼ、僕のメガネが――っ!」
悲鳴に近い声を上げて、その場にへたり込むメガネ。
「お詫びといっちゃなんだが、これで丸く収まらないか?」
「これは?」
「芽紅の鉛筆だ。くすねてきた」
「はぅうう! 芽紅ちゃんのピツエン!」
いやなんだよ。その呼び名。
鉛筆でいいだろ、鉛筆で。
「僕、反旗を止めます!」
『おい! どういうことだ! メガネ三号!』
『おれらを切り捨てるつもりか!?』
『反乱したのはお前がいたからだぞ!』
メガネの持っていた無線機から悲痛な叫びが聞こえてくる。
『だいたいボクらにもいい思いをさせるっていったじゃないか!』
「無理です。この二人が手を組んだのなら――」
『ま、分かっていたけどな。お前ではカリスマ性は低すぎる』
「ハントさん!」
メガネはハントの声を聞きハッとする。
『おれらにも居場所をくれたあんたのこと、忘れないよ』
ハントの声は震えていた。
「そんな。嫌だ。僕はまだ終わりたくない!」
『組織を裏切ったんだ。それなりの罰が下るだろう。おれにもあんたにも』
「ハントか。貴様も来い。全員の前で判断を下す。もちろん俺とハゲが話し合ってのことだが」
『了解した』
「そんな! 僕はまだこの遊びを続けたい!」
メガネは聞き分けなく、叫び続ける。
「いやだ! 女の子のパンツを見るまではここにいたい!」
苦悶を浮かべるメガネ。
「可愛い女の子といちゃいちゃしたい!」
このまましゃべらせても無駄なだけか。
「僕、僕は――っ!」
そこでメガネの意識は途絶えた。
「殺していないか? ハゲ」
「へ。手心を加えるのは得意なんでね」
「ふ。さすがハゲだ」
「はん。いつもあんたに突っかかっているのも反乱を防ぐためだったんだがな」
ハゲとグータッチすると、メガネを抱えて共同スペースに向かう。
意識を失った生徒たちも集めて今回の
弁護人と、裁判長、そして検事側の意見を聞くため、大がかりな話し合いになることとなった。
俺もハゲも、そこまで大きな痛手は負っていないが、今後のチームワークに関わってくる。
みんなをまとめ上げるには、罪を犯したものに適切な罰を与える必要がある。
とある人物だけ不問というわけにはいかない。
それでは抑止力は生まれない。
秩序を維持するためには裁判のようなまねごともしなくてはならない。
それにしても反乱を犯した人数が少ない。
やはり、ほとんどの者は傍観者だったか。
実働した人数はせいぜい十名ほど。
この十名を切り捨てれば組織は存続できるだろう。
しかし、メガネよ。残念だ。
ここまで聞き分けがないとは考えもしなかった。
裁判が開かれる前にアメゾンで購入する。あと二日もあれば届くだろう。
それにしてもハゲは甘いな。
裁きを下すのにためらっている。
メガネの戦力を失うのは辛いが仕方ない。
俺はリーダーだ。
心を鬼にする必要がある。
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