第12話 反乱
カレーを食べ終え、勉強を再開する俺たち。
お互いに苦手科目を教えあい、自然と女子陣と距離が近くなる俺たち。
春、夏、秋、雪の四季娘の四人は意外とバカらしく、俺に積極的に教えてもらおうと近寄ってくる。
が、なぜか夏音と芽紅の妨害にあう。
「一条くんは心に決めた人がいるかな!」
「そうなの! 何があっても揺るがないの!」
「揺るがないんだったら、アタシが勉強教えてもらってもいいじゃん」
拗ねたように俯く秋。
バインバインと揺れるものをお持ちなのに、俺が揺れるのを試すかのような発言。
なるほど。
俺に免罪を着せるための策略だな。この学校を退学させようとする――。
「俺は別に構わないが、そちらの勘ぐりは全てお見通しだ」
「それって、アタシの気持ちが……!?」
「ああ」
「きゃー!」
恥ずかしそうに赤い顔を左右に振る秋。
悲鳴を上げたかと思うと顔半分を参考書で隠す秋。
俺は困ったように笑みを浮かべて芽紅の隣に腰を落ち着ける。
と、芽紅は一人分、距離をとる。
俺がさらに隣に移動すると、やはり芽紅は一人分、距離をとる。
「ど、どうしたの?」
嫌われた?
それはショックすぎる。
というか、いつの間にそんなことをしでかしたのか。
「いや、隣はもっとふさわしい人がいるの」
芽紅は悲しそうな笑みを浮かべて言う。
なんで悲しそうにしているんだよ。
そんな言われかたしたら気持ちが揺らぐじゃんかよ。
「ハゲくん。隣にきて」
「あ。わからねーことが、あんのかよ!」
野心と下心マシマシでにじり寄ってくるハゲ。
俺と芽紅の間に座ると嬉しそうに勉強を教え始める。
ん。そこさっきできていたような気がするが。
芽紅が分からないと言ったところ、さっき回答していたのに。
よくよく芽紅を見やると可愛くウインクをしてくる。
何かを伝えたがっているらしいが、俺にはさっぱりだ。
秘密同盟を結んだ仲だが、百合の環境とはほど遠い。
どういうことだ?
頭が混乱してくる。
ちょこんと隣に座る夏音。
「わ、わたしにも……優しくして、ね?」
小首を傾げてリボンを揺らす夏音。
「おう。いいぞ」
俺は
それに一通り目を通して教えていく。
「ここは『私が愛しているのは百合だよ』だ」
「かかか。こっちの翻訳は『愛しているのはBL作品だ』だな」
俺とハゲが同時に回答する。
さすが
ぶっとんだ内容を英訳させる。
「こっちは『ピーを愛し、ピーを
こんな言葉を夏音に告げるとは。
「ふふ。面白い回答だね」
夏音がくしゃりと笑みを浮かべる。
「えい」
「おわ!」
ハゲを押しだす芽紅。
その勢いで俺の胸板に飛び込んでくるハゲ。
ぎゅと抱きかかえて抑え込む。
「大丈夫か? ハゲ、芽紅」
「はひー! 芽紅は元気いっぱいなの~!」
芽紅はハゲに寄りかかっているせいか、ハゲは鼻の下を伸ばしていた。
「うほ! 実は男同士かと思っていたけど、俺の好きな相手は他の子が好きで――」
声を荒げてブツブツと呟く芽紅。
「め、芽紅ちゃん。早く起き上がろう? ね?」
「ええ。そうね」
そういって顔をまっ赤にする芽紅。
もしかして、芽紅はハゲのことが好き……なのか? ハゲに触れて喜んでいるように思えたけど。
でもそんなはずはない。
芽紅は夏音のことが好きなのだ。百合なのだ。
その本音を言うのが怖くなるほど、好きなのだ。
二人を応援すると決めたのだ。
それに承諾した芽紅だった。
だが、本人はあまり気乗りしていない様子だ。
どうして?
疑問に思いながらも夏音に勉強を教える。
これでいいのか? 俺。
「ちょっといいか? ハゲ」
「んだよ?」
俺たちが離れれば、自然と夏音と芽紅が近づくはず!
「こっちで秋たちの面倒をみないか?」
「お。いいぜ。オレもやる!」
俺とハゲは二人で秋、雪、春、夏の四人を見ることになった。
後ろをちらりと見やると芽紅と夏音が落ち着いたように勉強をしている。ハゲの部下が少しちょっかいをだしているものの、二人の関係は良好。
よし。百合計画の第一ステージは突破だな。
ふぅっとため息を吐き、秋や雪、春、夏の様子を見る。
しばらくして、勉強会もお開きとなり、みな男子寮に戻っていく。
しかし、
佐藤はその中性的な可愛らしい顔立ちから男の
男なんだけど、女の子みたいに可愛らしい。
うちのチームには佐藤目当てで入ってくるものがいるほどだ。
断っていたが、佐藤の可愛さは必見と呼ばれるほど。
地下組織《佐藤親衛隊》により佐藤は守られることなった。
それまで無法地帯だったが、秩序が生まれた瞬間である。
とにもかくにも女子よりも女子らしい彼なら、女子寮の内部を解析できるだろう。
あとは、このパイプを利用して女子寮と男子寮の差について
クツクツと笑っていると、ハゲが気持ち悪いと言う。
しかたない。
計画がうまく言っているのだ。
ハゲにどう思われるかは重要かもしれん。
真顔に戻すと、ハゲは不安そうな顔をする。
「佐藤、大丈夫かよ」
「普通にしていれば女の子だからな。問題ないだろ」
「……そうか」
ハゲも部下を思いやる強い意志がある。
脅威に屈することなく、常に自分の意思を押し通す力がハゲにはある。
ともすれば自分勝手と言われるハゲだが、その意思は佐藤や鈴木、佐々木を動かした。
彼らはその力強さに惹かれていったのだ。
俺にはそれができない。
意思が薄く、部下の言う通りに行動することも多い。
俺は空っぽだ。
指示を集めて浮かれているわけじゃない。
どこか人間らしさを欠いているところがある。
その結果、鉄仮面と言われるほどだ。
己を空にし、その向こう側へと立ち入った者。
揺れるロープ。
橋から落ちた人形。
墓前に捧ぐ花束。
引き裂かれた幼い子。
俺が求めているのは過去にある。
今じゃない。これからでもない。
「さ。これから情報を引き出してもらおうか。佐藤」
インカムを起動させる。
が、通信妨害を受けている。
「どういうことだ?」
俺がハゲに訊ねる。
「わかんねーよ! でもこれは――」
《聞こえますか? ハゲ、一条さん》
この声、メガネか!
《我々は
メガネの放送を聞いた男子寮の面々は驚きの声を隠せずにいた。
寮内の全ての電源を掌握されていた。
真っ暗な男子寮。
「くそ。一時撤退だ!」
「ハゲ! 話し合おう!」
「違う。これは反乱だ。オレたちはあいつらに見合うだけの力があると示さねばならない!」
《ハゲや一条さんは今回のオペレーション・スタディデイズで良い思いをした。我々には一切還元してくれなかった! この怒り、我々は喜べずにいる!》
そうなのだ。
メガネや狙撃班、それにゴリラには良い思いをさせてやれなかった。
それは苦渋の決断だったが、彼らには今回ばかりは耐えて欲しかった。
「メガネ、これから報告をする。それを聞いてからでも遅くはないはずだ」
《我々は蹶起する。異論は認めない!》
この空っぽな声には応じないか。
直属の部下であるメガネやゴリラに言われるとくるものがあるな。
「ハゲ、第二格納庫へ」
「おう。だが、いいのか?」
「力を黙らせるには力で制するしかない。同じ力がなくば、会話はなりたたない」
喧嘩は同じレベル同士の者でしか起きない。
だから、こちらも武器がいる。
「しかし、男子寮を攻略することになるとは」
ハゲの視線が痛い。
俺の部下がやらかしたことだ。ハゲには関係ない。
対物ライフルやアサルトライフル、手榴弾を格納した倉庫へと向かう。
メガネよ。悪いな。
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