第3話 作戦・MIZUGI
翌日。
俺は
自分の席に座ると、女子の声が聞こえてくる。
「男子どもに一回言ってやらないと!」
かなりの恨みを買っているらしい。どこのどいつか知らないが。
教壇に立ち、声を荒げる女子生徒。鴻が中心らしい。
「昨日、私たちを襲った武装集団。それらがここの男子生徒らしい!」
声を高らかに厳しく責める。
「お前がやったのか!?」
女子の一人が俺をとらえる。
「いいや」
〝鉄仮面〟と言われるほど、俺は感情が顔に出ない。
「連れていけ」
鴻は声を上げて俺を見下す。
女子二人が俺を引き上げて、裏庭まで運ばれる。
抵抗すればできたかもしれないが、彼女らの気持ちを考えるとできなかった。
「なんで俺なんだ?」
「鉄仮面。お前が傷ついても誰も驚かないだろう?」
痛い、が声には出さない。
「お前らの行為は無意味だ」
「ち。しぶとい!」
拳が振るわれ痛みが伴う。
それでも絶対に仲間のことは話さない。
そう誓ったのだ。
しばらくすると俺は解放され、普通に授業を受ける。
「一条、その頬の傷はどうした?」
先生は怪訝な顔でこちらを見る。
「いえ。転んだだけです」
「そうか」
《だから鉄仮面にして正解でしょ?》
《まさかこっちまで庇うとはね》
そんなささやき声が聞こえてくる。
そっか。俺の性格なら話さないと知っているのか。
内心、クツクツと笑う。表にはださないが、一定の信頼を得ていることに変わりない。
好都合だ。
今度の作戦も行けるな。
「ねぇねぇ。芽紅と一緒に帰らないかな?」
「ちょ、ちょっと芽紅ちゃん」
芽紅の後ろについてくる夏音。
「いいじゃない。一条くんはけっこう可愛いかな」
「うん。……うんじゃないの! わたしは――」
「いいから、いいから! それとも一条くんのこと嫌いなのかな?」
「そういうんじゃないの!」
まったくと言いたげな夏音。
「俺の意見はなしか……」
「ふふ。いいでしょ。芽紅ちゃん可愛いんだから」
自分のことをそうまで言えるのか。
「ま、否定はできないな」
苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「じゃあ、帰ろ♪」
芽紅は俺の手をとる。
そのまま俺たちは歩きだす。
「テストの結果はどうだった?」
俺が何げなく問いかける。
「問題ないかな♡」
「うん。わたしも」
「ふたりとも頭良さそうだものな」
俺は軽口を叩くと、車道側を歩く。
「ふふ。芽紅はちゃんと勉強しているかなっ♪」
「わたしは毎日二時間の予習復習しているの。頑張っているの」
「努力は必要ってことか。まあ、天才って言われていても本質は他の子と変わらないんだろうな」
俺だって毎日一時間勉強をしているし。
「天才っていったら朱鳥ちゃんかな?」
「そうなの。体幹とか、身体の動きに関してエクストリームなの」
エクストリームってなんだ?
まあいいや。
「それよりコンビニに寄らないか? アイス買おうぜ?」
「わたしは遠慮するの」
「芽紅は買いたいかな♡」
なんでこいつらは俺を気に入ったのだろうか。
コンビニのアイスコーナーに入ると何種類か見つめる。
「芽紅はシロクマのアイスが食べたいの~」
のんびりとした口調でそう言う芽紅。
「俺はパリコのチョコミントだな!」
「チョコミントってはみ……」
「おい。今、歯磨き粉と言ったな?」
「ふぇ!? そ、そんなことないよ!?」
「まさかチョコミントのことを歯磨き粉が腐ったような味がするといったな!!」
「そこまで言っていないよっ!」
「お前には分かるまい。このうちから湧き出る衝動がっ! チョコのほろ苦さとミントのすっきり感、爽やかさと甘さを兼ね備えた最強の味だ!」
「はい。ごめんちゃい」
芽紅は項垂れるようにして呟く。
その後もしばらく語ったが、夏音と芽紅が困ったような顔を浮かべていた。
アイスを食べながら、帰り道を歩いていく。
俺はあいつらに有益な情報を引き出さねばならなかった。そのはずだった。
自信家で小悪魔チックな芽紅と、清楚系可愛い夏音の二人との会話は予想以上に楽しかった。
なんだか、いけないことをしているみたいな感覚だった。
☆★☆
その日の夜。
共同スペースにて。
ハゲを中心とした新メンバーが集まっていた。
俺も意見を聞くため、そこにいた。
「これから明日の作戦・オペレーション
「「「おおおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおおぉっ!!」」」
耳をはち切れんばかりの大声を上げる構成員。
「作戦はこうだ」
地図を広げる。
明日から始まるプールの授業。それに合わせて更衣室にカメラをセットするというもの。
その作戦には二つの弱点があった。
一つは仕掛ける時のタイミング。そしてもう一つはカメラを回収するタイミング。
この二つのタイミングをミスると先生や女子生徒に見つかってしまう。
最悪な展開を考えると捕まり、退学にまで発展する。
ハゲはそのリスクを知っているのか分からないが、みなを先導する指導者として声を高らかにしている。
「おい」
「なんだ? 鉄仮面」
「この作戦の脆さと、リスクは考えているんだろうな?」
「は。そんなのうまくいくに決まっているだろ? 退任しろよ、鉄仮面」
先の湯煙大作戦で失敗をした俺の名声は今や風前の灯火。慕ってくれているのはメガネを始めとする電子班とゴリラくらいだ。
だが、電子班がこちらについてくれているというのは大きい。
彼らの存在はまたの好機になる。今は静かに見守るべきなのかもしれない。
作戦の概要を頭にたたき込んだ俺はメガネと一緒に作戦を見つめなおす。
「こんな計画では捕まってしまいますよ!?」
「ああ。分かっている。仕掛けるときは清掃員として入るらしいが、帰りもうまくいくとは思えない」
ふるふると力なく首を振る。
「このままでは貴重な兵力がごっそりと抜かれてしまいます。ここは作戦を止めるしか――」
「待て。その回収係を俺に任せてみないか?」
「回収を!? ……確かに成功率はグッと上がりますが……」
躊躇うように呟くメガネ。
「失敗はしない。それに俺なら仲間を売ることはしない」
「それは分かっていますが! このメンバーには強力な指導者が必要です。万が一、いえ億が一でもあなたは生き延びてもらわなくちゃいけません」
「分かったよ。できるだけのことはやる」
ハゲの提案した作戦・
チチチっと時計の針が動く。
「タイミング合わせろ」
「「「コピー」」」
『歩兵部隊の侵攻を確認。外部には通信障害と隠蔽プログラムの適応を確認」
「ちゃんとやれているのか? ハゲは」
「分からない。今ところ順調みたいだが……」
俺は高台から狙撃銃を構える。
スコープの先にいる男子学生を見やる。
なんで迷彩服を着ていない……。
それにプールの更衣室を開けるのに、いつまで手間取っている。
「一分経過」
「……しかたない。メガネ」
『分かりました。電子ロックの解除を始めます。攻撃プログラムの起動を確認。位置座標コピー。バイアス。アルゴリズムの解析開始。全システムロック解除』
「あいた!」
スコープの中にいる男子学生は解除されたことを確認し、中に突入する。
中に入りうろうろとしている男子学生。
「おいおい。カメラの設置位置は決まっていないのかよ」
相変わらずずさんなやり口だ。
ハゲの言うことなんて聞くから――。
更衣室から出てきた男子学生は慌ただしく去っていく。
まったく。この程度の作戦でここまでとは。
「メガネ。作戦終了だ。撤退する」
『了解!』
俺の作戦をハゲに伝える必要があるな。
しかし、あの頑固で過激派のあいつが聞いてくれるのだろうか?
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