第3話 大株主

「哲平兄ちゃん、ガクさんの契約を見直ししないと」

「えっ、どうして?」

「あんな点字も打ってない書類、無効でしょ。パパの弁護士だった大杉先生に来てもらって、書類を作り直さないと。ガクさんの作った曲で、清涼飲料水の大手メーカーがスポンサーについたの知ってるんだからね」


 レイは哲平を睨みつけながら言った。


「おい、レイ、俺の会社潰す気か?」

「ガクさんに正当な報酬がいっても、まだ余りあるでしょ。億だよ、億。大株主になれるよ哲兄ちゃん」

「おまえ、いつの間に調べたんだ」


「ぼくは別にかまいません。今のままで」


 ガクがフンワリと声を出した。


「ちょっと、何、弱気なこと言ってるの。もらえるものはしっかりともらわなくちゃ」

「でも、税金にほとんど持っていかれるんです」

「だとしても、頼れるものはお金だよ」


 レイがまだ何か言い募ろうとしたら、


「わかった、わかった、大杉先生に来てもらおう」


 哲平は両手を挙げ、降参のポーズをとった。


「しっかりとしたマネージャーがついたもんだ」


 エレベーターの稼働する音がした。


「あら、お邪魔やったかしら?」

「いや、会議は終わりました」

「アクちゃ」


 ルナがガクに抱きついた。


「ごめんなさい。パパの帰りが遅いから、ガクさんにすっかり甘えてもうて」

「いや、かまいません。小さなレディに抱きつかれて嬉しいです。今までずっと1人で暮らしていましたから」


 5年前に交通事故で視力を失ったという。そのとき、同時に両親も失ったということをレイから聞いていた。


「晩ご飯は野菜炒めとコロッケとお握りでええかしら? ほかに食べたい物があったら言うてね」

「ナオさん、充分よ。レイも手伝いに行く。ルナちゃんはどうする? あれっ、眠たそうな顔してるぞ」

「ない、ねむ、ねむ、ない」

「じゃあ、ミニーちゃんのエプロンしなくていいんだね」

「いや~、いるう、ミミちゃ、いる~」





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