敵の本拠へ

「さて、このまま終わりってわけにもいかないよな」


 僕と森本が、一通りアンチドールの迫力に脅えた後。

 あることを思い出して、僕は森本に声を掛けた。


「え、あの、まだ何か……?」

「あるだろう。お前が怪人を作っていた場所に案内してもらわないとな」

「ひっ……!?」


 もうこいつに怪人を作る気力があるとは思えないが。

 一応、ちゃんと手段も奪っておかなくてはな。

 僕に出来る抑止はこれくらいなものだし。


「あ、あ、あの……」

「さあ、早く行こうか」

「……は、はい」


 なにやらもごもごとしているが、まあ、見逃しておこう。

 もう抵抗することも出来ないんだから。

 首根っこを掴んで、拠点まで案内させることにする。


「カ……アンチドールは、どうする?」

『私はいい。待っている』

「そうか、分かった」


 カミナは先に家に帰って待っているらしい。

 まあこれ以上こちらに関わる必要もない。

 本来ここに来るはずではなかったんだし。


 僕もさっさと終わらせて、早く家に帰ろう。

 そして、謝って、お礼を言って。

 その後がどうなるかは分からないけれど。


 アンチドールと別れ、森本を担いだままアーケード街を出る。

 陽の光の下に出てきたところで、思い切りジャンプしてアーケードの屋根の上に乗った。


 商店街の屋根の上は、それなりに高さがあるので町中を一望できる。

 西の方には、以前戦いの舞台として選んだショッピングモールの建物。


 ビルに阻まれて見えないが、ショッピングモールの手前にはアンチドールとしてクラフトドールと戦った交差点があるはずだ。


 南には、再登場したエビ怪人と戦った飲食店街。

 他にも、景色を眺めて思い出すことはたくさんある。

 そしてその思い出の多くにカミナの笑顔がある。


 ……おっと、感傷に浸っているような場合ではなかった。


「おい、お前の拠点はどこにあるんだ」

「拠点?」

「どこで怪人作ってるんだって」

「え、えっと、あの……あっちです」


 森本が指さしたのは、いくつかのマンションが並んでいる方向だった。

 とりあえずそちらに向けて、いくつかの建物の屋根を飛び移りながら移動する。


 ジャンプのたびに森本が「ひえっ」「おあぁっ」などと脅えた声を出すが、まあ気を遣う理由もないので我慢してもらうことにする。


「どのマンションだ?」

「あ、アレです。あそこの六階……」


 目的地は二十階建てくらいの白い外壁のマンションだった。

 エントランスも綺麗な装いで、それなりに高級なところではなかろうかと思える。


「あの、セキュリティがあるので一回降りて……」

「必要ないだろう」

「へっ!?」


 最後に思いきり跳んで、直接六階の外廊下に降り立つ。

 ようやく僕の肩から降ろされた森本は、目を白黒させながらしばらくふらついた後、尻もちをつき、そのまま倒れた。


「どの部屋だ。早く開けてくれ」

「あ、あんためちゃくちゃだ……。前はそんなじゃなかったのにぃ」


 森本はしばらく倒れたままでぶつぶつ言っていたが、やがて立ち上がると、廊下の一番奥に進んで扉の鍵を開けた。

 パル・パトの衣装の中に家の鍵を入れていたのかと思うと少し滑稽な気もしたが、まあ流しておくことにする。


 重い扉を開けて、薄暗い部屋に入る。

 何とも言えない無機質な臭い。

 クラフトドールのスーツは言ってしまえば土足な訳だが、様々なリスクも想定して、申し訳ないとは思いながらもそのまま廊下を進む。


 一人暮らしにしては広い森本の部屋は、綺麗にすっきりと片付いている。


「ん? どこで怪人を作っているんだ?」

「お、奥の部屋です。こっちは生活用」


 片付きすぎていて、生活用とは思えないほど生活感がない。

 しかし、この上さらに奥の部屋があるとは。

 家賃を想像すると恐ろしいな。


 案内されて奥に入ると、カーテンを閉め切った暗い部屋の中に、見覚えのある機械がズラリと並んでいた。


 機械は稼働し続けていて、新たな怪人の素が小さく作られ始めている。

 規模は小さいが、大学のあの部屋で僕が作っていたのと同じ機械たち。


「これは、一体どうやって?」

「少しずつ仕組みを調べていたのと……皆川さんが廃棄したやつをもらって」

「廃棄を?」

「ちょっと分解して大学内に捨ててあったので、覚えていたことを元に修理して」


 どうやら僕の後始末のいい加減さが生んだ事態だったらしい。

 家に持って帰るには大規模すぎるし、まさかあの廃棄から怪人を作るような人間はいないだろうと考えて大学内で処理していたのだが。

 こんなにも身近に怪人を作り始めてしまうやつがいたとは。


「とりあえず、これは改めて分解させてもらうぞ」

「もちろんです」


 さすがの森本も、この段階に至って抵抗することはなかった。

 思っていたよりもカミナの説教で反省しているのかもしれない。

 なんにせよ、これで全てに決着がつく。


 まずは作りかけの怪人を潰してしまう。

 機械の電源を落とせば培養は止まり、生命維持も断たれる、が。

 念のため、作られ始めていた小さな体を持ち上げ、ベランダまで持って行く。


「落とすんですか?」

「いや……」


 右腕にエネルギーを集中させ、必殺技として使っていた光線を小規模に放つ。

 怪人の小さな体は、爆発して散り散りになった。

 やはり仕様は継続のままか。


 次に、機械の核となるパーツを引き抜いて、粉々に砕いてしまう。

 以前は、どうせ使えないと思ってこの工程をサボっていたからな。

 そう簡単に手に入るパーツでもないので、さすがにもう装置を動かすことは出来ないだろう。


 ちなみに、どんなパーツかはここでは述べない。

 また誰かに怪人を作られてはかなわないからな。


 こうして、装置の解体を進めていく。

 森本も指示に従い、廃棄するものをどんどん袋にまとめる。

 三十分ほどで、無事に全ての解体作業が終了した。

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