柴犬怪人をやっつけろ!
前回のあらすじ。
チクショウ!!
油断した!!
以上。
……では、少し味気ないか。
怪人と共にパル・パトが現れたので、怪人をさっさと片付けてパル・パトを倒してやろうと思ったら。
倒しきれていなかった怪人に足を掴まれた。
パワーがある怪人に足を掴まれるなんて、嫌な予感しかしないぞ。
そして、その嫌な予感は一切のブレなく的中する。
足が強力に引っ張られ、走ろうとしていて不安定になっていた体重が一気に持って行かれる。
体のコントロールが完全に失われ、空中を滑るように怪人の元へ体が動いた。
そして。
豪快に地面にダイブ。
衝撃がスーツを通して内臓まで届く。
体中に痛みが響いて、咄嗟に動きが取れない。
そして怪人はその隙を見逃さない。
掴んだままの足をさらに両手でがっちり握り、空中で振り回される。
高さは大したことないが、スピードと、この後に襲ってくるであろう衝撃への恐怖。
これに比べれば、遊園地の絶叫マシンなど可愛さの権化だ。
投げられるか、地面に叩きつけられるか。
どちらにせよ衝撃に備える必要があるので、痛みをこらえ、遠心力に逆らいながら、なんとか少しずつ体を丸める形に持って行く。
何とかアルマジロの様に体を丸めたところで拘束が解放され、勢いよく店のガラス窓に突っ込んだ。
ガラスを突き破って室内に転がると同時に、悲鳴が響き渡る。そりゃそうだ。
背中で衝撃を受け止め、ダメージを最小限にとどめて立ち上がる。
急いで状況把握。辺りを見回す。
放り込まれたのは服屋だったらしい。
破れたり汚れたりした布が床に散乱している。
売り物に申し訳ないことをしたが、悪いのは僕を放り投げた怪人の方なので責任を追及するのはやめてほしい。
それに殺されてしまうよりはマシだろう。
だから、その。
脅えると同時に非難するような目で見るのは、どうかやめてもらえないだろうか。
しかしそんなことをクラフトドールの口から言う訳にもいかないので、正規の入り口から外に出る。
行儀のいいことに、柴犬怪人は道の上で待てをしていた。
ショーか何かのつもりなのだろうか。
と言ってもほとんどの人は逃げてしまって、脇に並ぶ商店街の店舗の人達くらいしか観客はいないけれど。
しかしまあ、この柴犬怪人意外と手強いな。
動きが荒っぽいのは最初に受けた印象通り。
だが、タフさとパワーが尋常じゃない。
動きの精細さに関しては、以前の怪人ならクラフトドールとの戦いのために僕が調整していた。
そしてクラフトドールに倒されるため、パワーや耐久値もちょうどいい具合に設定していた。
ゲームの敵キャラを作るような作業だ。
パワーバランスを考えながら、細かな調節を掛けていく。
だが、今目の前にいる怪人は。
パル・パトが制作したこの柴犬怪人は。
その辺りの調節がほとんどなされていない。
いわば作ったら作りっぱなし果汁百パーセント成分無調整無添加天然素材な粗雑な作り。
これが厳しい。
ただ強ければいいって作り方だからなぁ。
まあ僕がやっていたような微調整が、彼の技術的に不可能だっただけだろうが。
これがなかなかに厄介なんだよな。
攻撃を受け流して反撃をしても、それがいつまで続くか分からない。
体の疲労は如何ともしがたいし。
油断や疲れで隙が出来たら、さっきみたいな手痛い一撃を食らってしまう。
さてさて、どうしたものか。
とりあえず、こっちから仕掛けるのは悪手な気はするが。
などと考えている間に、柴犬がこちらに向かって駆け出して来るのが見える。
やれやれ、作戦を立てている時間もないか。
柴犬がこちらに駆け寄ってくる……だけだったら可愛らしくてのほほんとした、微笑ましい描写に見えるんだがな。
全力で噛みつきに来ているから全く笑えないのだけれど。
怪人が、レンガのような模様の地面を蹴る。
右足の蹴りだ。
僕は体を少しずらして対応する。
やはり動きが雑だ、跳び上がって直線的な動きをするだけ。
横をすり抜けていく怪人の脇腹の部分に、肘を叩き込み、撃ち落とす。
地面が砕ける音。
その音が耳に届くと同時に地面を蹴り、真上に跳び上がる。
そして膝から、怪人の腹部に向けて落ちていく。
さて、ここでワンポイント。
怪人には、内臓がないぞう。
……怪人は通常の生物とは違い、食事をしないので内臓が備え付けられていない。
出て来て、クラフトドールと戦って、倒される。
その数時間の為の存在なので、長期的に生命を維持するための機能が備わっていないのだ。
カゲロウの成虫みたいなものだな。
ともかく、怪人は消化器官のような内臓を持っていないということ。
これがどういうことかというと、だ。
腹部への攻撃は、人間相手ほど効果が無いということ。
人間が腹を殴られて痛いのは、生命維持に必要な臓器がダメージを受けるからだ。
怪人にはそれがない。
では、どうして腹に膝を叩き込んだのか。
僕は怪人の上に乗せた膝を即座に開き、マウントポジションに移行する。
そして、右手にエネルギーを集める。
こうやって、確実に必殺技を打ち込むためだ。
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