どうあがいても

 新しい怪人が出てきたのはおそらく、元助手の森本タカトの仕業だ。

 そしてその原因は恐らく僕だろう。

 カミナを傷つけてしまった僕が、一緒に怪人を作っていた彼を一方的に追い出したから。


 いやはや、まさかそれがこんなところで禍根を残すとは。

 さてさて、どう対処したものか。


 そもそもお互いに大学に勝手に作ったあの研究室に、それぞれ期待時に来ていただけだった。

 なので連絡手段はない。


 僕が引き払った以上、森本があの研究室に姿を現すとは思えない。

 どこに住んでいるのかも知らない。


 一つ救いがあるとすれば。

 彼が表に出たがる性格だということ。

 怪人と戦い続けていれば、首領のパル・パトとして、森本自身が現れる可能性は高い。頼んでもいないのに勝手にやっていたんだから。


 そういう自己顕示欲の強いところが、人間として合わなかったんだよなぁ。


 しかしそうなると、こちらからできることはない。

 再び怪人が出現するのを待つしかない、か。

 やってくる可能性が高いのに、いつ来るか分からない恐怖。不安。


 怪人を作る立場では分からなかった感情だ。

 ずっと僕が人々に与え続けていた恐怖。

 我ながらゾッとする。


 前回のエビ怪人は、恐らく僕が最後に作った怪人をベースに作っていたので、弱点にも見当がついた。

 だが、もう作りかけの怪人はいない。

 つまり次に出現する怪人は、全くのオリジナルだということになる。


 あるいは、完全なオリジナル怪人なんか作ることが出来ずに、もう怪人が出現しなくなる可能性もあるだろうか。

 そうであってほしいけれど、希望的観測はせずに何かしらの対策を講じておくべきだろう。


 僕はアドリブが利かないからな。


 さて、どうしたものかとしばらく腕を組んで考える。

 しかし座ってうんうんと悩んでいるだけで結論が出るようなものではない。

 今までの研究活動でもそうだった。経験からくる学び。


 一旦部屋に戻って、大学の課題やなんやかんや。

 人間として健全な社会生活を送るために、最低限やらなければならないことを片付けようと立ち上がった瞬間。


「そうか」


 あるアイデアがひらめき、思わずぱちんと指を鳴らす。

 この案を元にして作戦を練るのは、悪くないだろう。


 いい作戦だとほくそ笑むような暇もなく。

 恐らく険しい顔になりながら、僕は準備を進めることにした。




 あれから三日。

 諸々の準備を終えて、僕は街に立っていた。


 それも、アンチドールのスーツを身に纏った状態で。


 本来であれば、前回のクラフトドールとの戦闘で、このアンチドールの役割は終わるはずだった。

 しかし適当に置いておいたスーツを再び取り出して、しかも着用して街中に立つ事態になっている。


 僕を見かけた人々がそれぞれに驚き、叫び、逃げ出し、撮影を始める。

 存在自体が悪の怪人だが、前回と違って人や車を襲うことはしない。

 ただ、この場に立って待っている。


 怪人をではない。

 こんな風に待ち構えていて奴らが出てくる保証も理由もない。

 まあ出て来てくれたら都合はいいんだけれど。


 僕が待っているのは、マスコミだ。

 もっと言えば、発信力のあるメディア。

 それらを持った人間。


 やがて、遠くからこちらに向かって大きなカメラを構える数人のグループを視界にとらえる。

 テレビ局のスタッフだろう。

 よしよし、これを待っていたんだ。


 スーツのアシスト機能を最大限に活用し、カメラにぐぐいっと近づく。


「ああ、いやいや待ってくれ。あなたたちに危害を加えるつもりは無いんだ。ただこれを貸してほしい」


 逃げようとするスタッフ達を、あくまで落ち着いた声音で引き留める。

 それでも聞く耳を持たない男性二人は、文字通り首根っこを引っ掴んで止めた。

 余計に怯えられてしまったが、致し方ないだろう。


 逃げ出さなかった人達にしても、恐怖で足がすくんだせいで逃げられなかったといった様子だった。

 まあこれも仕方ないか。

 しかしみんな意外と冷静ではないものだ。


「これ中継? 録画か。うん、その方がいい。じゃあしっかり撮って、夕方のニュースででも流してください。ああ、そこにいる人達も! もっと近くでカメラ回してくれたらいいよ!」


 遠巻きに携帯のカメラを構えていた一般人にも声を掛ける。

 SNSで回してもらえたら万々歳。

 情報の経路は出来るだけ多い方がいいだろう。


 僕が声を掛けた男は、数歩だけ近寄りはするものの、あまり積極的に近づこうとはしない。

 他にも数人ほどこちらにカメラを向けている人はいるが、半径百メートル以内に近づく者はいなかった。

 こういうのを撮影したがる人って、もっと危険を顧みないのかと思っていたけれど。


 しかしまあ、その程度の距離なんて一気に詰められるから、近づかないからと言って安全ということはないんだけれど。

 そんなことを言っても理解できる訳がないか。


「さて、では改めて。先日の一件でご存知かとは思うが、私はアンチドールという」


 それでは。

 またしても演説を行うことにしよう。

 まさかまたこのスーツを着て、こんな演説をすることになるとは思わなかったけれど。


 全て僕が始めたことに起因しているからな。

 最後まで尻拭いをしなければ。


 これではまたカミナに嫌われてしまうな。

 だがそれも仕方ない。

 というか、その方がいいかもしれない。


 カミナ、お兄ちゃん頑張るからな。

 たとえどんなに嫌われたとしても。

 お前が安心して、笑顔で過ごすことが出来るように。


「新たなる怪人たちの首領だ。先日、私が君たちに提供した怪人はどうだったかな?」



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