偽ヒーローの戦い方
「これはキツいなぁ。どうしたらいいんだ」
外部スピーカーがオンになっていないかを、再び確認しながら呟く。
弱音しか出ないぞ、実際。
どうやって戦えばいいんだ。
カミナが表に立って、指示だけ出していた時とは訳が違う。
そもそもあの時は、どうやってクラフトドールに倒させるかまで計算に入れて怪人を設計していたからな。
しかし、目の前の怪人は僕が設計したものではない。
なので弱点も戦い方も、全く検討もつかない。
さっきと同じミスを繰り返さないように、油断なく怪人の姿を見据えながら、突破の糸口を考える。
目の前のエビ怪人をじっと見据える。
たしか僕がエビ怪人を設計した時には、何か弱点を用意していたはずだ。
それが何だったか、既に朧気になりつつある記憶の糸を手繰り寄せる。
怪人が脚をわずかに踏み出し、半身で構える。
そうだ、確か下半身だ。
全体的に装甲が分厚いが、下半身は比較的守りが薄い。脚を集中して狙う展開にしようと思ったんだ。
僕は現場に行かずに指示を出すという設定上、怪人の弱点は遠くからカメラ越しに分かるものでなくてはならない。
この場合はシルエットから判断できたのだと理由付けをするために、下半身は上半身に比べて、小さく貧弱そうに見えるように作っていた。
そして今、目の前にいる怪人も同様のシルエットをしている。
見るからに装甲が弱々しい訳ではないけれど、上半身に比べれば軽装に見える。
動きやすさのためでもあるのかもしれない。
薄型の鉄板が仕込まれいるのでもない限り、同様の弱点を持っている可能性はある。
と、考えていいはず。
そう思いたい。
どうせ何の取っ掛りもない状態なのだから、試してみる価値は十二分にあるだろう。
ダメならダメでまた考えよう。
最後までダメなら大人しくくたばるだけだ。
飛び出して行くために、脚を少し深く踏み込む。
それを見て怪人もピクリと動く。警戒中か。
まあ、この場合は警戒していてくれた方がいい。
地面を蹴り、バネに押されるように強く飛び出す。
まずは顔を狙って、固く握った拳を繰り出す。
エビっぽい姿にどうにも似つかわしくない太い腕が、機械の腕を防ごうと前に出る。
その腕が怪人の顔を隠す。
おそらく、自身の視界まで塞ぎ、僕の姿が認識しづらくなるはず。
単純で助かるよ。
勢いのままに殴るようなことはしない。
クラフトドールは、腕から放たれる必殺の光線を持っている。
そのエネルギーを少しだけ放出する。
腕に少し当たるだけでは、ダメージなどまるでないだろう。
だがそれでいい。大切なのはこの光。
この光が、更に怪人の視界を塞ぐ。
拳の起動を下向きに修正。その速度に引っ張られ、体が深く沈む。
アスファルトを砕くように落ちた腕が、新たな脚、そして軸となって、蹴りの勢いと重み、その威力を支える。
全身を使って、半円を描きながら蹴りを繰り出す。その蹴りは見事にエビの細い脚に吸い込まれ、したたかに打ち付ける。
上半身に比べれば細く、装甲も薄いその部位は、それでも金属のような硬い音を響かせる。
そしてカクンッ、と。
力が抜けたような動き。
やった、と思った。
読みが当たった。
有効打となった。
上手くいった。
そして、上手くいった時ほど、油断に足元をすくわれる。
姿勢を崩した怪人は、それでも咄嗟に手を伸ばして僕の頭をつかむ。
そのまま、クラフトドールのマスクが一気に地面に叩きつけられた。
地面にぶつかるダメージよりは、ぶつかった時の振動がこたえる。
脳が揺れる。
地面にキスを実現してしまうとは。
これは予想外の反撃。心が挫けてしまいそうだ。
しかし僕も、このままやられっぱなしになる訳にはいかない。
弱点を着いた以上。そしてその弱点を自覚されてしまった以上。
ずっとその弱点をさらし続けてくれるとは思えず、そして何度も同じ手が通用するとは思えない。
ので、この機会に全力を尽くす。
幸いというか、クラフトドールはカミナの安全のために、メット部分が最も衝撃に強い。そういう風に僕が作った。
そのおかげで、脳が揺れるぐらつきは多少あるものの、打撃によるダメージはほぼ皆無と言っていい。
痛みがないので怯まずに動き続けることができる。
少し姿勢に無理があるのと、脳を正常に作動させにくい状態になったことにより、動きの正確さに多少難がある。
が、達成できないほどではない。
それに正確さで制限をかけるまでもなく、何がなんでも動かなくてはならない。
まずは手を伸ばす。
僕の頭に乗せられているのとは反対側の腕を掴む。
これまたスーツの力により、一桁増した握力でしっかりと捉える。まずはこの手を決して離さないこと。これが肝要だ。
この行動はエビ怪人にとって予想外だったらしい。
怪人はそちらに顔を向けた。
怪人に感情はない、と思うが。
生物らしく反射を起こしたり計算した行動を起こすので、感情のように見えるものがある。
この場合は、軽い動揺か。
人間相手の方がこの辺りは扱いやすいんだけれど。
なんにせよ隙が出来た。
何せ僕を抑えているのとは反対の腕だ。
怪人よ。
クラフトドールの体の大部分は、お前の視界から外れているだろう?
仰向けの姿勢では脚を上げることも出来ないので、手を使う。
光線エネルギー、チャージ完了。
いつでも発射可能。じゃあ今だ。
今度は目潰しのこけ脅しなんかじゃない、本気のやつ。
いつまでも人の頭に乗っけてある失礼な腕にお仕置きだ。
怪人は長身で、身長に比例するように腕も長い。
そのせいで、さすがに胴体までは僕の腕が届かない。
そんな訳で致命傷にはなり得ないが、必殺技をトドメに使わなければならないという道理もなし。
僕は小悪党なので、このくらいの小技が丁度いい。
正義の皮を被った白い光をゼロ距離で放つと、重量感のある太い腕が破裂して吹き飛んだ。
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