偽クラフトドール編
怪人出現
これは一体どういうことだ。
たしかに目の前のテレビの画面の中で動いているのは、よくよく見慣れた姿である。
いや、その姿そのものを見るのは初めてだ。初顔だ。個体としては。
しかし生物というか、物体の種類として見るのは初めてではない。どころか、かなり見慣れている。
この世界の誰よりも見慣れていると確信を持って言える。
なにせ僕が作っていたのだから。
しかし。しかしだ。
今目の前で暴れているこいつはなんだ?
こんなやつを作った覚えはない。
大体、数が合わないぞ。
怪人と呼ばれるあの存在を、存在達を作っていたのは僕だけのはずだ。
僕以外の誰が作るというのか。僕が作っていない以上、あんなものが存在しているのはおかしい。道理に反する。ありえない。
いやしかし、それならば何故、こんなものがいる。
今目の前で流れているこの映像はなんだ。
これがフェイクニュースの類でなければ、テレビの向こう側、見慣れた街の中で、たしかにそれは存在し、その見た目に相応しい破壊活動を行っている。
僕はとりあえずチャンネルを確かめる。
このニュースは、僕の知る限りで最も真面目でお堅いイメージのある放送局のものだ。
と、いうことはだ。
例えドッキリ的にこんな偽物の映像を作るような可能性はほぼ皆無だ。こんな悪質なおふざけはしないはずだ。
テレビの故障……それはまずないだろう。
そりゃ長いこと使っているのでそろそろどこかおかしくなってくる可能性もあるだろう。しかし、見たこともない怪人が街中で暴れる映像が流れることはないだろう。
どんな壊れ方だ。怪談か。怪奇現象か。
いや、実際に起こっている現象は怪奇極まりないな。極まりないが、幽霊の仕業などと、そんな妄言は信じないぞ。
そうだ、夢。
夢ということは……ありえないな。
さっき転んでぶつけたばかりの膝には、まだ鈍い痛みが残っている。頬をつまむまでもない。
となればこれは現実か。
となれば僕が作っていない怪人が確実にこの街に存在していることになる。
となれば……なんだ?
何が起こっているんだ?
「カミッ……!!」
咄嗟にその名前を呼びかけて、思い留まる。
カミナを呼んでどうしようというのか。
また彼女に背負わせるのか。苦しめるのか。
大体この状況をどう説明する?
僕ですら何が何だか分かっていないというのに。
僕が作った怪人だと思われるだろうか。
いや、今更信頼の失墜など気にしてどうなる。
そんなことよりも大事なことがあるだろう。
それに、カミナならば、どんなに辛くとも犠牲者を出さないために飛び出して行きかねん。
今までもそうやって自分を犠牲にしていたのだ。
しかし、カミナを行かせるのはダメだ。
兄としてでも人としてでもなく、僕がそうしたくない。
カミナが向かうと言っても、全力で止めるだろう。
ならばどうするか。
僕にできることはあるのか。
とりあえず、カミナにこのことを知られないようにしなくては。
怪人が暴れている場所をよく確かめて、記憶してからテレビを消す。
まあ、部屋でパソコンや携帯からニュースを見られたらアウトだが。
さて、ここからどうするか。
あれこれと思案を巡らしながらも、一つの可能性が、取り得る手段が、頭の片隅にあった。
片隅にはいて視界に入り続けているのだが、しかし。どうしても目を逸らしてしまう。
やりたくはない。
だが、やらざるを得ない。
腹を括る。
覚悟なんて高尚なものではなく、諦め。あるいは妥協。
もしくは、もしかしたら。
このまま消えてしまえるならばという淡い願望。
そんな後ろ向きな理由に振り回されて、新たなるヒーローもどきが誕生するに至った。
乾燥した舌の上に、後悔と自暴自棄から抽出された鉄の味が広がった。
まずい。
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