とどめを刺して
背後から腰に重い衝撃が走り、体が前のめりに倒れていく。
なんと、いつの間に後ろに?
全く気が付かなかったぞ。
驚愕に目を見開きながら、アスファルトに腕を着く。
鈍い揺れが全身をゆっくりと駆け巡り、痛みが徐々に波紋を起こして響く。
痛い。とても痛い。
が、これはいい。勝負を決するためのいい一打になる。
だが、まだ倒れる訳にはいかない。
せめて。せめてもうひとあがき。
最後の粘りを見せてから倒れてやる。首領がこれだけでアッサリとやられてしまってはならない。
それに、もう少しだけカミナの活躍を見ていたい。
地面に胴体が着くと同時に、体を右に半回転させて転がる。
追撃のため拳を振り上げるクラフトドールの姿が視界に入る。良い眺めだ。
が、食らってやることは出来ない。
後方に高く足を上げ、頭と腕で体を支える変則的な逆立ちのポーズ。そして誰もいなくなった地面に、予想通り拳が落下した。
そのまま前のめりに出てきた頭を足で絡め、地面に叩き落とす。スーツのおかげで身体能力が上がっているとはいえ、ここまで上手くいくとは。
叩きつけてから素早く足を解くが、予想外の攻撃に面食らったのかクラフトドールはすぐには動けないようだった。
なので立ち上がり、先程とは逆転して僕がクラフトドールを見下ろす構図になる。
そして、ガラ空きの背中に固く握った拳を突き落とす。
『ぐくっ……』
通信機越しに、カミナが呻く声が聞こえた。
思わず手が止まる。いや、ここでやめてはダメだ。
そう思いながらも、追撃することができない。
戦闘中には致命的なほど、明らかな隙ができた。
そしてその隙を見逃すクラフトドールではなかった。
ガバッと立ち上がったクラフトドールは、そのままの勢いで下顎に向けて頭突きを繰り出してくる。
口の中に鉄の味が広がる。
一瞬遅れて、脳が、揺れる。
まずい、これ、何が、どう、なって?
見えない。見え、る。が、分からん。
クラフトドール?
痛い。いや、痛いのか?
今立っている?
座っている?
外部からの情報の処理が追いつかないが、それとは裏腹に自身の現状を把握しようとする言語にもなりきらない言語のようなものが、頭の奥から溢れだしてくる。
数秒遅れて、思考が飛んでいることを理解。
そしてそれを理解すると同時に、自分の置かれている状況も頭に入ってくる。
いつの間にやら、僕はアスファルトの地面の上に仰向けに寝転がっていた。体のあちこちが殴られたように痛いので、頭突きの後、無抵抗をいいことにいくらか殴られたのだろう。
そういえば先程までいた場所からいくらか後方に移動しているな、と周囲の車との位置関係から考える。
きっと打撃でここまで突き出されたのだろう。いわゆるノックバック。ゲームみたいだ。
そんなことに意識が行っているあたり、まだ思考がぼやけている可能性がある。
だってそうだろう、そんなことよりも現在最も注目すべきは、僕の正面に立ち、こちらを見下ろしているクラフトドールの方だ。
どうにか逃れようとまず腕を動かす。
しかしそれは試みだけで終わる。痛くて動かん。
そもそも、この状況では身動ぎ一つ出来まい。即座に動きを封じられることだろう。
あー、なるほど。ここで決着か。
まあ善戦した方だろう。そろそろ潮時だ。
『お前の、お前のせいで……!!』
通信機越しに声が聞こえる。
外部のスピーカーにしているわけではないので、アンチドールに向けて言っているというよりも、独り言に近いものだろう。
ああ、分かるよ。
「よし、追い詰めたな。このままとどめを刺すんだ」
兄としての最後の指示を送る。
願わくば必殺技で爆殺。というか、それ以外の結末では困る。
『……うん』
しかしどうにも反応が鈍い。
あまりにも気分が暗いようだが。
しかしそうはなりつつも、必殺技を出すために腕を構える。
見下ろされながら、覚悟を決めて目を瞑る。
潔く消えてしまおう。そう思った刹那。
『……お兄ちゃん?』
「ど、どうした?」
唐突に話しかけられる。
アンチドールの仮面の下なので表情が見えることはないだろうが、不意のことで声が動揺してしまう。
『今』
「え?」
『やっぱり』
「おい、どうした?」
『今の反応』
そんなに、声がおかしかったか?
『この目の前にいるの、お兄ちゃんなの?』
……え?
目の前に、いるの?
その、目の前というのは。クラフトドールの、目の前か?
この、アンチドールのことか?
アンチドールが僕だと言った?
待て待て待て、何を言っている?
いや、分かるわけがない。
アンチドールが僕だなんて、思う要素はないはずだ。
「カミナ、何を言っているんだ?」
『どうして?』
「何がだ?」
『どうしてお兄ちゃんが、怪人なの?』
どうしてって、そんな。
どうしてそれが分かったんだ?
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