お出かけ日和

 人間というものは欲が出てくるものだ。

 人間嫌いの森本さんに影響されたというのもあるだろうか。


 最初は森本さんの提案からだった。

 元々乗り気ではなかったが、今ではある程度納得もしている。


 怪人はいつしか、ただのクラフト・ドールの相手役ではなくなっていった。

 怪人が襲うのはほとんどが「公序良俗に反する」人物、もしくは団体である。


 クラフト・ドールの相手役として出てきた怪人は、警察では裁けない社会の厄介者を裁く。

 それが僕の良心の限界であり、合理主義の行きついた先だった。


 効率的な人殺しには興味はない。

 だが、効率的な正義は悪いものではない。


 もちろん、怪人があまり人々に歓迎される存在になってしまうとクラフトドールの正義が揺らいでしまう。

 怪人はあくまで悪だというところを見せ続けなければならない。


 そして、それも大して難しいことではなかった。

 怪人のターゲットや出現時期、場所、行動などの演出により、怪人は「丁度いい」存在になった。


 怪人の正体を、カミナは知らない。

 あの子は純粋な正義のままでいい。泥をかぶるのは僕だけでいい。


 もちろん母さんにもこのことは話していない。

 僕がヒーローと怪人の両方を指揮していることは、森本しか知らない。


 彼には時々、怪人の親玉「パル・パト」として表舞台に立ってもらっている。

 これは彼自身が望んだ役回りであり、楽しそうに自作の仮面を被って、悪の親玉を演じてくれている。

 公序良俗に反するターゲットの選別も、楽しそうにやってくれているし。


 機動隊でも、たとえ軍隊を使っても倒せない怪人を、人々を守りながら最小限の被害で倒す。

 そして僕は遠隔で彼女に指示を出す。


 そんな生活が、もう半年ほど続いている。

 カミナがヒーローとしての活動を嫌がるようならさっさとやめてしまってもよかったが、今のところ人を助けられることに満足しているらしい。

 怪人による治安の回復効果を見ても、もうしばらく続ける価値はありそうだ。


 ガラスケースのすぐそばに設置しているパソコンを起動する。

 怪人の生成装置も起動。

 今から始めれば、一週間後には完成するはずだ。


 人を襲い、ヒーローに倒される。

 その為だけの存在を作る。

 残酷なようだが、今更そんなことは微塵も気にならない。


 しばらく怪人作りを続け、後は自動で生成できる、という段階になる頃には二十時を回っていた。

 バイト終わりとして帰るのにも、いいぐらいの時間だろう。

 僕はいつも通りの妹思いの優しいお兄ちゃんに戻るべく帰路に着いた。

 怪人を作ろうが何をしようが、兄としての僕が本当の僕だ。





 月曜から金曜が終わってしまえば、その後にやって来るのは土曜である。当然だ。

 空は実によく晴れている。実にデート日和。


「いやー、やっと休日だ」


 僕の講義スケジュールはそこまで過密なものではないが、休みが待ち遠しいのにはもちろん理由がある。

 カミナが高校に行かない。

 これは大きい。


 数か月前までは空手部でバリバリ活躍し、土日にも練習に行くことがあったが、クラフトドールの活動に集中するために部活をやめた。

 いつ怪人が出てくるか分からないとはいえ、人のためにここまでできるなんて、やはりカミナは普通の女子高生とは違う。

 当たり前だ。


 部活に行かなくなってから、カミナは家で過ごすことが多くなった。

 友達と遊ぶのも少し気が引けているのだろう。

 気にせず遊んでこいとは言うのだが、月に一回も遊びに行っていない様だ。


 しかし、活発でよく友達と遊んでいた妹がずっと家で過ごしているのは流石に見ていられないので、僕は休日には積極的にカミナを連れ出すことにしている。

 僕と遊ぶのであれば、怪人が出て来ても気にせずに出動できる。

 僕だってカミナとデートが出来て一石二鳥というものだ。


 デートの予定がある日には怪人が出ないように調節しているしな!


 そもそも、怪人の出現時間や場所はカミナ自身の私生活に影響が出ないようにちゃんと計算してある。

 もちろんいつも同じ場所や時間でも不審なので、ある程度のバラツキを持たせながら。


 その為カミナが自分の時間を削る必要はないのだが、彼女自身にはそれは分からないし、責任感の強い性格なので言い出したら聞かないだろう。

 そこが素晴らしいので、口は出さないでおく。


 ともかく、今日僕はお疲れのカミナを精一杯もてなして、癒さなければならない。

 とは言っても、遊園地に連れて行ったり旅行に行ったりする訳ではなく、二人で街を歩き、気に入った店があれば入る程度なのだが。


 隣を歩く美しい横顔を眺めて、思わず頬が緩む。

 足を踏み出すたびに肩の上で揺れる髪は、よく手入れされていて艶やかだ。

 似たような髪質だったはずなのだが、僕のボサボサ髪とは大違いだ。


 豪華な食事も、大量の買い物も必要としない。

 随分安上がりだが、僕もカミナも金を使うのが特別好きという訳でもないので、これでいい。

 積極的に金を使う気が起こらない、というのもあるが。


 さて、駅のホームから出た僕達は、せっかくのいい天気を差し置いてショッピングモールに入る。

 中途半端に都会になりかけているこの街には、遊べる場所が少ないのだ。

 うーん、地方都市。


 それに、こういった施設は何も買わずに色々な店を除いているだけで楽しいものだ。

 フードコートでランチも出来る、ゲームコーナーもある。


 ここら一帯にはこれ以上の、というよりこれ以外にデートが出来る場所がない。

 実際、僕とカミナのデートは八割がここだ。


 

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