ショートショート・『拉麺』

夢美瑠瑠

ショートショート・『拉麺』

(これは、7月11日の「ラーメンの日」にアメブロに投稿したものです)



 おれは拉麺らーめんが大好きだ。

 ラーメンの専門店で食べる本格的な拉麺はもとより、即席めんや、生そばの冷やし中華とか、カップヌードル、なんでもござれである。麺類一般がだいたい好きで、そば、うどん、パスタ、そうめん、全部好物だ。

 拉麺の醍醐味は、麺のつるつるしこしこと、だしのうまみの利いたスープの絡まり具合だと思う。

 さて、と勢い込んで、湯気の立っているラーメン鉢からぴかぴかの麺の束をたっぷり掬い上げてちゅるちゅる、と啜りこむ。

 スープの適度な塩味と、甘味。口の中で麺が跳ね踊る感じ。

 両方が渾然一体となって、しびれるような”拉麺の至福”の瞬間が訪れる。

 美味の極みの”味覚の天国”。刻み葱も、シナチクも、チャーシューも、絶妙のコンビネーションを演出している。

 …そうして、エクスタシーに浸っているうちにだんだんと胃袋がくちて、ズーッツと最後のスープを飲み干した後には、今度は満腹感という幸福と快楽がやってくるのだ…


 その日も、そうやって”拉麺の至福”に浸っていると、ふと、「あ!家に財布を置き忘れた!」ことに気づき、急に地獄に突き落とされてしまった。

 一応拉麺をすっかり平らげてから、おずおずと、「あのー財布を忘れて…文無しなんすけど…どうしたらいいですか?」と、お坊さんのようにピカピカの禿げ頭の店主に尋ねた。顔から火が出そうだったが、しょうがない。免許証とか、その類を預けて、家まで往復すればいいかな?とか一応シミュレーションしていたが、やはり店主の処断に従わねばならない。

 「あ、払わなくていいよ」店主は空のラーメン鉢を一瞥すると、そう言った。

 耳を疑うような返答に面食らったが、(麵を食らった後だけに?w)冗談を言っている顔つきではないので、「へ?なんでですか?」と問い返した。

 「そのナルトの裏を見てみなよ」

 店主はラーメン鉢の底に残っているナルトを指さした。


 おれはナルトをひっくり返した。

 と、そこには見事なくらいに黒光りする、例の”台所のお邪魔虫”の焼死体がべったりへばりついていたのであった。


<了>

 

 


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ショートショート・『拉麺』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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