第3話

しばらくすると、例の小高い木にたどり着いた。当初はこの木に登って森を見渡す算段でいたが、近づいてそれが不可能だと分かった。なぜならその木は異質で、かなり高い位置にしか枝が生えていなかったからだ。また、それに加えて幹がかなり太く、両手で幹に掴まって登ることもできそうになかった。これ以外に特に案が無かった私は途方に暮れ、一度この大木の下で休憩しながら作戦を練ることにした。私は持参してきた水筒を取り出し、喉を潤した。

しばらく考え続けたものの、なかなか良い案が思い浮かばずに困っていると、いきなり少し強い風が吹いた。木の葉が舞い、一瞬目を閉じる。そして目を開けると目の前には小さなぬいぐるみのようなものが置いてあった。不思議に思って近づくと、いきなり”それ”は動き出した。

私は”それ”が意志を持って動く生物のように感じられ、気づけば日本語で質問をしていた。

「君の名前は?」

決して伝わるはずなどないのに。

「オーウェン」

「え?」

私は自分の耳を疑った。そしてそれを確認すべく、もう一度尋ねた。

「何て言ったの?」

「妖精、オーウェン」

どうやら空耳ではなかったようだ。

「妖精、オーウェン、妖精、オーウェン、妖精」

「分かった分かった。もう大丈夫。」

私が少し考えこんでいる間、”それ”はずっと同じ言葉を繰り返していた。なんだか気味が悪いが、彼に通ずる手がかりとなるかもしれない。それに妖精ともなれば凄い能力を持っていても不思議ではない。

「君は何の妖精なんだい?」

「水、水、水、、、」

「何回も繰り返さなくても分かったよ。」

やはり気味が悪い。彼の情報を聞いて、”これ”とは早急におさらばしたい。

「ところで、私はここに友人を探しに来たのだが、どこにいるか知らないかい?」

「どこにいるんだ?」

「いや、だからそれはこっちが聞きたいんだよ。」

遂に狂ったか。”それ”はまともに返事をしてくれなくなったようだ。念の為に、最後にもう一度だけ尋ねた。

「ちょっと助けてほしいんだけど、いいかな?」

「たす、けて、、、」

ったく。まいった。せっかく妖精だっていうから何かわかるかと思ったのに。仕方ない。私は自分で探すことにした。ここに留まっているのも”これ”がいるから気味が悪いため、適当に歩き出した。いくら広い森といえども、一二日あれば全体を回れるだろうと考えたからだ。

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