駄菓子屋(ショートショート)

もとやまめぐ

駄菓子屋(ショートショート)

土管の中ももう暑い

日向なんて出たら焼け死んじまうんじゃないか

こんな日は

そう

いつものばあさんの店先だ

あそこはいい

日暮れまで戸を開けておいてくれる

中の冷えた空気が扇風機でそよそよとやってくるんだ

学校が終わる頃には近所の子らがやってくる

アイスってのが美味いらしいが

落ちたやつちょいと舐めてみたら

ありゃ甘すぎる

しかも冷たすぎてびっくりする

この暑い日にあんなもん食べたら

暑さと冷たさでおかしくなっちまう

ワシには合わんな

一番良いのはあれだ

ばあさんがくれるジャコってやつ

かってぇ小魚でびっくりしたがよ

あれは美味いんだ

ああ、考えてたら小腹が減ったな

今日も行ってやるか

ばあさんの相手してやるのも

ワシの仕事みたいなもんだしな



ーおかしい

戸が閉まってる

いつもならとっくに開いているし

中の椅子にばあさんが腰掛けてテレビ見てるはずだ

だが今は中も真っ暗だ

戸に何か紙が貼られている

ワシに字は読めん

何かあったのか



いつもの子らがきた

やはり皆、戸の前で立ち尽くしている

1人が走ってどこかへ消えた

またしばらくして戻ってきたと思ったら

大人を連れてきたようだ



………ワシはそんなこと、信じないぞ

だって昨日までいつも通りで

また明日ねって言ったじゃねぇか

言ったよな、ばあさん

ワシは待つぞ

いつも通り

この戸の前で寝そべってな

だから

早く出てこいよ



子らが去り

カラスは遠のき

夏の虫の合唱と

夜風が通り過ぎていった

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