39最終話 崩壊家族とヒドロキシクロロキン
スタッ! 腰に両手をあてがい、ランウェイのリターンに立つキリコ。
杖を持ちシューホンを着けて右手で杖を突きビッコを引きランウェイから消えて行く。
次のジュリア・ロバッツとチェンジしたが、ある感慨に包まれていて、「いつまでもお洒落はしたいんだよね・・・。」胸中に生まれた真実。ランウェイをぎこちなく往復するジュリア・ロバッツをトキメキの中で見守る・・・。
麻痺の左足に短下肢装具を装着する事に抵抗感がある女性は少なくはなかった。
女性は何時まで経っても美しくありたい。それが全ての女性の心情である。
オレンジ・クリマスブルー・ネイビー・アメジスト、カラフルな色合いを施したカラーバリエーションは108色あった。その他装具のベルトには本革を採用、デザインはルイ・ヴィトン社製だった。医療用具もここまで来たか・・・。ジュリア・ロバッツのランをランウェイの
傍らで観ていたキリコには独立した思考の持ち主だった。
どの様な時代でも女性は一個の女性である。その刹那、刹那に美しくあるべきである!移り行く世情に流されてはいけない。女性のアイデンティティーは棄ててはならず、個々のマイノリティとして生きるべきである!
これがキリコの心情だった。
第二章 「崩壊家族」
「パパやめて!ママはね。」娘の声が入らない!生卵(うらん)が叫ぶ男は血走っていた!狂っていた!
突き立てた牛刀の左胸の切り口から鮮血が放射状に吹き出ていた
「パパ怖い!」生卵が泣き叫んだ!鬼の形相をしていた。
「死んだる吠え面描くな!」笑いながら口角を拡げ右の口角からヨダレが滴り落ちていた。細いがヨダレは切れずに糸を引いていた。
眼が血走り「殺すぞ!」と礼子(れいこ)を一発殴った時に倒れたその場所で横座りしながら輝(あきら)を睨んでいた。
泣いて居なかった!
「死んでみろや!根性無いくせに。」喉から絞り出した低い声が輝を襲っていた。
ピタッと笑いを止め「オマエ殺すぞ!」眉間に縦シワを寄せていた!
「殺してみ、コラ!」ラが巻き舌だった。
礼子が立ち上がり最上級の睨みで夫を睨む!「
なにコラ」キッチンで虚勢を張っていた夫が肩で息をし始めた夫が倒れるまで1秒と掛からなかった!バタン!ゴン!胸、肩、額の順で床に打ち付けていた。
「パパ死んじゃった!?」顔が強ばり父の元へ駆け寄る!十畳ばかりのダイニングキッチンに駆け寄る程広くは無かったが、慌てていたから父娘だし・・・。
後から理由付けは幾らでも出来た!
「倒れた拍子に包丁が外れたから出血は多かったものの臼杵を外れていたので命の心配は要りません。」救急隊員にそう告げられた。
警察には殺人未遂を疑われた。
「夫婦でいがみ合った末に刺した芝居したんじゃないの独りでさ、認知かもね?」ゲスい取調べをされた。
眼が覚めると右腕に抗生剤の点滴をされていた。うつ伏せに倒れたからそのベクトルで胸に刃を立てた牛刀が、心臓近くまで奥深く突き刺さっていたから胸を切開手術が施術されていたからだ。「篠山先生!痛いっ!」飛び起きようとして傷口に負荷が掛かり痛みが発した!揉んどり打った輝はを制止させようと看護師や警官がベッドの回りを取り巻いた。
「ドーパミンですよ!先生。」いい終えると左胸を押さえた輝は目を瞑った。
死没者14万人を弔うかのように幾千万のクマゼミが鳴いていた。
広島市長は平和宣言の中でヘレン・ケラーを登場させ二度とあっては為らない史実を苦々しく訴えていた。
そして勅使下向内閣総理大臣は、核軍縮を何度も何度も唱っていた。
自殺未遂で命だけは助かった大原輝は警察からキツいお灸を据えられて退院していた。
「ご迷惑をお掛けしました先生・・・。」項垂れて消え入る様に消沈したいた大原に優しく声を掛けて、「時に大原さん僕のお見舞い品の中のレモンとグレープフルーツはもう召し上がりましたか?あれは、僕の一番好きな果物なんです。ワザワザカリフォルニアから取り寄せて食べようとしたところ、県警から電話が有りましてね・・・。ハッ!としたところで笹ys魔は掌を降りだし、「イヤイヤ、文句を言うつもりはありませんヒドロキシクロロキンtぴう物質は聞いた事がありますか?」
「ヒドロキシクロロキンは抗マラリア剤かつ全身性・皮膚エリテマトーデス治療薬なんです。」大原輝はとにかく、白血球をアサリの貝毒とハイブリッドさせるとか、変異株と対抗させるためダイオウグソクムシのドーパミンやアドレナリンをハイブリッドさせてスーパーしらたまを作るとか、そんな人だからとんでもない事を言ってのけるに違いないと構えて聞いていた・・・。
「海外では間接リウマチ炎症の軽減にも用いられています。
商品名はプラニケルと言うそうです。
ヒドロキシクロロキンはクロロキンの側鎖末端にヒドロシル基が付加された構造ですけどNエチル基のβ位が水酸化されています。」ここまで聞いて大原はポカンと口を開けたまま突っ立っていたが、篠山が声をかけなければ仮死状態だっただろう。
「実は椎茸国家の実業家で投資家の郭文貴さんに聞いたんです。」
「それでね大原さん・・・。」メガネの奥の眼球は希望に満ち溢れていた。
「トランプ大統領も新型肺炎に掛かった時にこのヒドロキシクロロキンを試飲したら完治したそうですよ?」
「巷で噂されているコロナワクチンよりも復反応がなく引用するだけでいいそうです。」溜息を長く細く吐いた。息を吐ききったあとで、深い深呼吸を吸い一気に語り出した。
「価格も五千円から一万円だそうです。いやあ、安いですよね、それにね、このヒドロキシクロロキンは、グレープフルーツやレモンに関係があるそうです。」ここまで聞いて大原は口が酸っぱくなり唾液が湧いているのを知った。
「先生それで、しい国家とは何の事ですか?」篠山は、人差し指を唇に当て、ピン!と立てていた。ニヤリとしていた。
「しい~、恣意。と、いう意味です。」あー、と頷いて二、三歩近寄りニコニコしながら「それでは、ダイオウグソクムシの細胞はいらないんですね?」 「必要です!」キッパリと言い切った。ニヤリとしていた。
「僕はね・・・。学術会議を辞職して、科学者に戻って良かったと思います・・・。」大原の目を見てしみじみと語っていた。
「科学者はヒドロキシクロロキンのような事がたまにある。たまーにね・・・?
だから面白いんです。ワクワクするんです。ワクワクしますよッ?」
両肘を脇腹に叩きつける真似をしていた表情は軽やかだった。
やがて日本国内の経済界と製剤界は相場がひっくり返るような大騒ぎに為った事は間違いない。
政界も然り、ネットも大変革を起こしていた。
副作用皆無の安全な錠剤を製薬会社が日本でいち早く名乗りを挙げて流通に拍車を掛けていた。某国からのコロナワクチンは入荷ストップを掛けられ日本のワクチン在庫は限りなくゼロに近かったが、日本独自で国産のワクチン製造が息を吹き返し自治体からの供給ストップはものの二ヶ月程度で復活していた。
「やれる技術を持っているからこそですよ。イチから勉強したのでは到底間に合わない・・・日本はね。」
昨日しらたまワクチンを接種した右腕が少し筋肉痛のような痛みを覚えたが、大原の一人娘を全力で護るべく決意で接種に挑んだ気概を篠山教授に打ち明けた。
「先生・・・、二回目のしらたまワクチンはもっと痛いと聴きました。でも、先生の開発は利権も関係無しに接種出来るとあって、僕も卯蘭も安心してまな板に乗れますよ。」
大原輝の思いの丈を聴いた篠山静夫は、これまでやって来た事が間違いなく履行されていると確信を持った。
サンパウロでは・・・。
「キラウエア火山みたいだな・・・。」ドロドロと溶けた灼熱の赤いマグマが外気に触れ冷え固まり黒くなった硬い表面を割って新しく若いマグマが顔を出し、やがて冷えて固まると瞬時に若いマグマが顔を出す! ルーチンの様にそれは続いていた・・・!
丸でハワイ島のキラウエア火山の様で・・・。
ブブブブー・・・! シャーー! という高音から低音がノイズが人々の耳、シンバから外耳道へ伝い聴神経に届き、それを破壊しかけていた! 幾ら坂学者の篠山静夫教授でも・・・。
地球の裏側に起こりうる全ての事を把握し切れない事案だった。
満面の笑顔で大原の連れた卯蘭の表情を覗き込み皺だらけの右手を卯蘭の頭に宛がった。
ウンウンと頷きながら大原の長女、卯蘭の頭を撫でながら」亡き妻、礼子の位牌を片手で拝んでいた・・・。(了)
シン・迎撃のワクチン しおとれもん @siotoremmon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます