38話 ゲイバーの女


礼子はあざとかった。

 ガシャーン!ラグビー部部室の鉄扉を力任せに閉めた音に驚いて振り向いた輝が観たモノは! 体育祭のカーニバル用のサンバの衣装を着た礼子が扉を塞ぐように立ちはだかっていた。

 透き通るような白い肌の臍と腰周りが露になって桃のような甘い果実を含んだ礼子のフトモモは何も言わなくても言いたい事が分かったので輝は甘い香りに自然と群がる昆虫のようについ、フラフラと歩み寄りしゃがみこんだ輝の位置は礼子の中心部からフェロモンが発散されている身体の秘部の前だった。

 礼子と結婚する前はゲイバーの経営者。



1979年8月。

「ちょっとスミマセン甲子園球場へはどうやて行くですか?」

阪神甲子園球場にアルバイトに黒いTシャツ、赤い布製のショルダーバッグを肩に掛けて阪神甲子園球場行き急行の開閉ドアに前から凭れて流れる街路樹を観ていた時、声をかけられた。

チリチリヘアに日焼けした堀の深い男はフィリピンから来たと言っていた。

「丁度アルバイトで今から行く所ですから一緒に行けば良いです。」

俺はお人好しの高校3年生、大原輝(おおはら あきら)。

今日はS高校とM高校との3回戦があると言うのに客は疎らだった。

「どの様な仕事ですか?」ニヤけた外人やな、と思いながら名前を聴くのを忘れて相手の目を観て答えていた。

自慢気に「アイスクリームを売っています。」

「あー、グッドですねひとつ買って上げます。」

ラッキー!今頃から売れたぞ。幸先が良い!

 外国人と話もしたし。

ハートは満点、買いたての白いボブソンは俺のお気に入りで輝は開閉ドアから一歩下がった位置から尻を出して前傾姿勢で車窓の外を観ていたから目立ったのかな?帰ったら母ちゃんと婆ちゃんに話をしよう。

と、思った刹那、「ここは人が乗って来るからあそこへ行って話をしましょう。」と、言われるがままに電車の連結部分へ行った。

 前方車輌と後方車輌の間隙に二人は対峙した。

輝を見つめる男が下を向き、「ワオ~!いい生地ですね、このズボン。」浅黒い指でボブソンを触り、手の甲には濃い体毛が、生えていた。

 その指が、段々と上がりつつ、「トイレ行きたくなあい?気持ちいい事してあげるよトイレ行きましょう。」輝の鼓動が早くなり貧血の時の砂嵐に襲われていた。イケナイ事!

「コウシエーン!コウシエーン!阪神甲子園球場へお越しの人はここでお降り下さい!」

マサに天の声だった!

「あ、着いたね、一緒に行こう。」

 背中を押された拍子にベクトルに任せて走り、逃げた!しかし人が多い!縫うように走る!改札手前の階段!詰まっている!「早く!」胸中で叫んだ!

 「ネエ、トイレ行きたくなーい?」ゾワ~ッと、鳥肌が立った!フィリピン人が忍者みたいに真後ろまで迫っていたからだ。顔が硬直し、首が凍って振り向けなかった!

 もう形振り構わず一目散にダッシュした。

こういう時ラグビー部で良かったと思ったのは正直な話しだ。

 先日、与野党合意の上、LGBT法案が無審議強行採決された。

このクーデターは与野党左派議員によるものだという。

 性自認している男性が女風呂に入り、咎められても「心は女性なんです。」と言えば無罪放免になり差別をしたらその場で逮捕される恐ろしい仕組みの法案で、こんな事がまかり通ったら日本は混乱し、解体状態になってしまうのでは無いかと、危惧を禁じ得ない法案だ。

「訴訟が乱発する!」と警告を発した与党議員は恐らく寝耳に水のクーデターと感じたに違いない。

 輝はニューハーフ嫌いだが逆にゲイバーのオーナーをやっている。

逆にてなんや?

 でも、あの高校生の時の経験がトリガーに為ってはいない。生きる為だ!

ニューハーフクラブジェンダーレディーという店名だがすこぶる流行っていた。

 単なるラウンジなのに一時間待ちの客で溢れ返っている。

ニューハーフクラブジェンダーレディーは三ノ宮東門通り東、北野坂のキリンビル2階にある三宮の酔客に知る人ぞ知る、結構有名だった。

 本当は若いアメリカンレディーが好きだったし、輝の性癖は変わらぬまま日本人女性と結婚もしている。

 55歳で、娘も生まれたがホントに可愛らしいから溺愛している。

ゲイではない証明だ。

 輝の名前は大原輝(おおはら あきら)オオハラアキラと書けば簡単で早く蹴りがつく。

ホントは若いアメリカンレディがタイプで英語を話せなかったから全然モテなくて、ニューハーフに逃げたという。

 彼女はその立ち居振る舞いが本当に女性らしいしドMかと思えるくらい男性に尽くしているから恋人にとっては必要不可欠の存在になるだろう。知らんけど。

 ニューハーフってカタカナでアメリカンレディみたいに粋に思えた。

が、土台は男なんだよな・・・。

 中には尽くして欲しいNHも居て均衡はとれているが、ゲスい奴はゲスいままで、その場が良かったら良いタイプで何の計画性も無い将来は因果応報に苦しむだろう・・・。

 

 日本の女は扱い難いし、増してや何時でもリードされたがるのが鼻についてそれがイヤでいざデートするとなると、「何処行く?」予定を組んでおかなかったばかりにデートの行き先を

相手に促す。

「何処でも良いよ。」なんじゃそれ!と思うが気を取り直して、「じゃあ映画でも行く?」るろけんが観たかったからこれ幸いと映画鑑賞を切り出した。

が、「暗闇で大画面観るのって眼がシバシバするのよ・・・、だから苦手。」ナーンヤ苦手か、「ンならカラオケでも行く?」マスクを外したかったから聞いたけど、「でも、お酒が飲めないんよねえ~。」ソフトドリンクを飲んだらいいやん!なんだかんだと断るのは輝とデートしたくないのかも知れない。

「逆にロッキーファイナルって面白そうじゃない?」逆にてなんや?

結局映画鑑賞やないか! 女って扱い難いんだよ。

 だから同性のニューハーフも採用した。女装者はお断りだった。

彼らは女性に為りたいかと言えば皆が皆首を縦に振る。

 しかし、それはただ、女性に近付く為のメイクアップを習得しているだけであって、子供は産めない。

 片やニューハーフと呼ばれる人種は男性器をちょん切り何日間も苦痛に耐え遂には性別変更登記まで済ませている人が何人も存在している。

 それは日本の法律で決まっているからプロトコルに従った健気な違和感を感じないNHだから・・・。

 今日もクラブジェンダーレディーの開店時間が迫り午後一番から行ってきた採用面接も最後の一人となって、間も無く面接に入室して来る。

 社長室で待っていると髭面のトシコが緑茶を運んで来て緑鮮やかなな品の良い美味しそうな緑茶を観て喉が渇いていたので一気に飲み干して一息つき序に輝が尻を触ってやると「キャッ、シャチョーったらん。」と、嬉しそうに尻を振って出て行った。こっちは全然嬉しく無い!。

 コンコンコン!トイレノックでは無いな。

プラマイ0点、当店の面接は百点から減点方式を採っている。

 当たり前の事でも普通に加点されて採用したら目出度く入店したスタッフが可哀想だから、客商売としての常識を如何に持っているかが問われる。

 それを問わない店が存在したら間も無く瞑れるだろう。

非常識を客に振り撒いて客を帰していては、コロナ禍のこの時代に勝ち残れない。

 徐に社長室の片開きドアが室外へ開いて行き黒いスーツに身を固めた見た目、男性が立っていた。

「どうぞ、入ってください。」輝は最後まで言う事にしている。

 それがこの店のスタッフ教育だと思っているからだ。

「ハイどうぞ。」では、何がどうぞかは分からないからツメシボを渡す前に「ハイ、冷たいお絞りをどうぞ。」と、言って客に渡す様に仕向けている。

「失礼致します。」一礼、「採用面接に参りました明石礼子(あかしれいこ)です。」

(あかしれいこ)とは、珍しい氏名だが「何で男性のままで来たの?」最初に彼を観た時思った事を口にした。

 すると彼女は、少しはにかんで俯き・・・、顔を歪めている?俺は彼の顔を覗き込もうとしたが次の刹那グクッとした。

 膝の上に置いた両手がボタボタと堕ちる大粒の涙で濡れ初めていたからだ!「どうしたの?」何か悪い事でも言った覚えは無い。

 と、逡巡していたら「いいえ済みません・・・。」

彼は女装者やニューハーフではなく純粋の女だったと言うでは無いか!プロトコルに反しているから不採用と言い渡そうとした時、「私、性転換手術したんです。」

なんだ、ニューハーフか。と、思いきや髭面?地毛で?肌はツルツルして色白?「ワタシ性転換した?まさか!彼に問い質すと、最初は女性だったそうだ。

 彼女はトランスジェンダーで、所謂、性同一性障害だったと言う。

思春期に異性装を頻繁に行う那須香を心配した母親に性別変更手術を酢進められた事で

手術に踏み切った。

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