3話 大原輝の娘卯欄(うらん)
不意に大原の自宅が脳裏にレビューされた。
アスファルト四層の重厚な構造の国道をもってしてもこの有様。
原因不明の地殻変動としか思い様が無かった。
大原輝(おおはらあきら)の自宅には真言宗の欅仏壇が二基置いてある。
「喧嘩売ってんの!?」脳天から声を出す礼子は輝を睨みつけ・・・。
「アタシはあんたの分まで働いて苦労してるねんで!」
「ご苦労様ぐらい言ってくれたらどうなん?」小首を傾げ口を尖らせて輝に詰め寄っていた
マジマジと睨む礼子の勤務先は安寿(あんじゅ)生命三田篠山支部。
あんじゅのオバチャンのあれだ!
礼子の先輩も上司も普通の人間関係だった。
そこへ性格が歪曲した礼子が入社し、普通の部下教育を敢行したわけだが、「私に意地悪をした。ムカつく!」と、帰宅してまで輝に愚痴を溢していた。
「何でアタシが働かないといかんの?」
「あんたのせいやわ!」辟易した輝は離婚を考えざるを得なかった。
「安寿の保険商品を勉強したら商品説明の奥行きが深くなってえもいわれぬ説得力が礼子に着いて来て、必死に売り込まなくても契約が後から着いてくる!だから自社商品には興味を持った方がええぞ!?」輝の元気な時は住宅営業だった。
自称カリスマの輝は高知や徳島の支店を立ち上げ、営業本部からかなり期待されていたものの毎日の痛飲や睡眠時無呼吸症候群が祟って頭痛を訴えるものの専門病院の受診は皆無で、脳出血が突然発症したため住宅メーカーからは、泣いて馬食を切るが如く首切り同然で今に至っている。
丁寧に噛み砕いてアドバイスしたのに、一個も商品カタログを捲った形跡が見られなかった。
「アホの礼子!、一回死んでこい!」口喧嘩が絶えない大原家には、5才になる一人娘が居る。
大原卯蘭(おおはらうらん)、輝は彼女にメロメロだった。
一回眼を瞑って頭を振り、脳内の混乱をリセットした!自認出来た時は意識を覚醒させる事が出来たが、パニックや意識混濁状態になった時には、自然覚醒に任せる他は無かった。
礼子の影響が勝っていたからだ。
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