第28話 遅れた二人

バタバタと上靴のノイズが聴こえ「遅れました!申し訳ありません!」

二人の看護師が入室!しかし、検体は横になっている。

「おい君達、バタバタするんじゃないよ!」金田一の注意を受けて謝り倒していた。

 約8時間後、院内通路に給食ワゴン稼動ノイズが蒸気機関車のようにシュボーと食事時間を促して通り過ぎて行った。

 目覚めたと同時にその記憶が薄く残っていた。

尻沢エリカは眼を開けた。パチリと、流石タレントだけあって寝起きは良く、腰から上体を起こし暫く眼前のカプセル上蓋を眺めていたがハッ!と気がつき両腕を挙げてみた!それを眼で追う。左手の指をグー・チョキ・パーをしてみた。

「なんて事なの!」大声を張り上げた尻沢エリカは金田一に向かって叫んだ!

「い、いやそんな事を言われてもリハビリをしないと現状維持できませんよ尻沢さん。」

 メドベッドがいくら実績があっても時代は変る。

変革して行く世界の病気や新種ウィルスは人間の最先端テクノロジーでも追いつけないのが現状。

 その事を痛いほど理解している金田一医局部長ならではの咄嗟の弁明に呆気に獲られ暫くはは黙ったままだったが、「・・・違うの!野際さんを呼んで!」

「野際センセー! 尻沢エリカさんが呼んでます!早く起きてねー。」ヤケクソだった。

 またクレームかと、思っていた。

「どうしました尻沢さん?」

 エリカの顔面は高揚して赤鬼の様に引き攣り笑いをしていた。

  刹那!「オメデトウございます。」

両腕を拡げハグの体勢に入ったが、慌てて腕を後ろに回した。

「いいのよ野際さん今まで我侭言ってごめんなさい。」

「貴方に叱られて始めて胸がキュンとしたの!あれから野際さんを見たら胸がキュンキュンしたわ!今でもよ?」瞳がハート型をしていて、キラキラと、光っていた。

「野際さん好きっ! これから付き合ってよね?結婚を前提にっ。」しかし、野際はすまなさそうに頭を垂れ、「僕は結婚しています。妻は身重なんです。」

 エッ?早く言ってよと、同僚の金田一、目覚めた篠山口、荻野原は、口々に思いのままの祝福を投げ掛けていたが、尻沢エリカは一人取り残されていた。

「オハヨウゴザマス。ああ、良く眠りました。マア、良いではないですか? ついにお目出度いサプライズが出ましたね、では私もサプライズに腹筋と上腕二党筋を披露しますか!」

 筋肉隆々とは、こんな事を言うのだろう。

篠山が30歳の身体を手に入れ溌剌とした感情に全員呆気に取られていた。

 暫く篠山の筋肉に己の膨れた腹を摘んだり摩ったりしていたが、ハッと我に返り、「庄屋三咲さん大原礼子さん起きて下さい?。」

「庄屋さん顔拭きのお絞りを渡してあげて下さい。」

ええッ!生きていた!? 大原輝がベッドから飛び起き庄屋三咲の立っている背後を摺り抜けて妻の礼子の元へ駆け寄り両肩を鷲掴み礼子!礼子!とオイオイ泣いていた。号泣だった。

 オイオイと泣く輝の背後で「ハイハイ。」と悔し紛れの返事をする三咲は不貞腐れていたが、顔面はそうでは無かった。

 庄屋三咲と大原礼子の身体はコロナ星人に乗っ取られていなかった。

地球人の愛が邪魔をして完全なる憑依にならず、表面のみだけ張り付いていたのだ。

 輝にその説明をしながら「オイオイ。」と、輝の背中から聴こえて来たものだから律儀にも「ハイハイ。」と返事をしたまでだった。

 それほど面白くは無かったが、それに・・・。

 大原輝が患う後遺障害には高次脳機能障害の内、感情失禁・失語症・半側空間無視等が顕著な症例として輝が知らぬウチに発症していた。

 何れも空間無視に、左脳が代行している場合が多く、輝にとっては不本当な形と為って輝の眼前に現れた。


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