第18話 さらばバックニー

赤の他人。親しみ易いが全くの赤の他人。

 心の隙間に手を入れる事も無いやせ細った心を見せまいと振舞う事も空しく思えた。

こうやって次第に老け込んで、過去の栄光が掠れて寂れて風化して行く。

 その命も忘れ去られて朽ち果てる。

「泣いてたんですか大原さん??デモネ・・・。涙の数だけ訓練したら必ず強く為れますよ?

 そんな人を沢山観てきました。」そう言いながらリハビリの事と大原の麻痺側の事とが、一度に覆い被さりセラピストの誠を誠意を持って一生懸命アドバイスし続けていた。

それが分かるから・・・。分かってしまう境遇だから・・・。

 今日の端野は一味違うかな?と過ぎった刹那。

「でも・・・、家族が居たんですよね・・・、その人達は。」ハアーッ!溜息を投げ棄てた。

 止めようこんな生き方。

もっと素直に、辛かったら泣く、寂しかったら自棄酒、自立心が出なかったら引き篭もる、礼子の仏壇の前で幾ら礼子愛してると言っても反応しない写真はどんな感情をしてる? どんな時の一枚なんだ?色んな遺影を観たがそんなに深くまで観た事が無かった。

「左膝と右肩を線で結び、そのラインにに沿い振りだせば真っ直ぐ振りだせる

リハビリは正直で飼い犬よりも裏切らぬグッジョブジョブリハ♪グッジョブジョブリハ♪

左足が出せたら踵を着地させれば膝が曲げれる。

 グッバイ、バックニー

グッバイ、バックニー・・・。」出鱈目な曲を付けて歌いながらトレッドミルを歩くとなんだか心が晴れた。

「なんていう曲ですか?」興味を持ったのは野際一人だった。何時も傍らに居てくれる。

「女房の様だが、それが仕事だもんな。」言ってしまえば身もフタもない。

 暫く考えて思い付いた事を言った。

「グッバイバックニーです。」ニコニコしていた。お上手ですね・・・。

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