第16話 事業計画

 輝はローイングをしていた。

「両肘を水平に引き真中に寄った肩甲骨を開く様に押し出すと麻痺側の左腕は前に動く。」

 ブツブツ言いながら訓練をしていた。

「ハンディー25kgで重くは無いですか?」

野際が心配して背中越しに尋ねた。

左指が痛いです。」どの指? 拘縮した麻痺側の指は、マシンのバーを握れず、対策として医療用のスリングをバーからずり落ちないように補助として指や檮骨に巻いているが、時としてそれが痛む場合がある。

 麻痺側は自分の身体ではなく赤の他人のものだから加減が分からない。

よって一巻き毎に調子伺いをする必要があった。

 野際以外当院の療法士達はそこの所は周知済みで、改めて講義を行う必要が無かった。

輝が通所しているデイサービスにも女性スタッフ主流でスタッフ十名足らずの女性を束ねる所長は唯一の男性スタッフであり、人当たりの柔軟性に長けた人となりはヘルパーとしての人格と資格が備わっていると、言えた。

 今は一人、黙々と左半身麻痺の後遺障害に向き合っている。

「終わりました。」

尻沢のケアをしている端野に声を掛けた。

「もうすぐこいのぼりやなあ・・・。」

 閃いた! 櫻の樹の横で、いや枝葉に干渉しない上方に揚げ、粘着性のある生地でこいのぼりを作り、桜を囲む様に配置すればいいのでは? 景観を損ねない様に! これでバッチリだとまでは言えないけれども恐らく緩和はされるに違いない。

「予算は?」早速金田一に提案してみた。

「えーっと、・・・。」そこまでは考えていなかった。

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