第9話 大原輝の戦後レジーム

「ただいま・・・。」大原宅は、誰も迎えない自宅玄関から垣間見える・・・。大原野工夫により仏壇が眼に飛び込んで来るから寂しくは無かったし、部屋をウロウロして仏壇に行き当たり礼子と三咲が亡くなった事を改めて知る残酷な事実に痛めつけられるよりも玄関から心構えを持っていた方が気分も楽だった。

 欅(けやき)仏壇の位牌は庄屋三咲の戒名が刻まれていた。 腰を伸ばしていた。

 大原輝の自宅には欅の仏壇が二つ佇んでいる。

「南無大師金剛遍照(なむたいしこんごうへんじょう)・・・。」経を揚げた。

 フゥーッ、溜め息を吐いたら肩の力が下りる。

礼子と三咲が両肩の上で喧嘩をしているから真言宗の経では間に合わない。

 礼子の位牌は輝の寝室に置いている。

三咲は台所に立つのが嫌いな性分だったからダイニングに欅仏壇を置いている。

「しかし、将来は一緒の墓に入るんだよサキちゃん?僕は、不死身じゃあないからね。」力なく呟いた。

 日本史上に残りそうな「令和宇宙戦争」は、地球対惑星コロナとの宇宙戦争だったが、犠牲者は2名、大原輝の妻、大原礼子(おおはられいこ)と元恋人の看護師庄屋三咲(しょうやみさき)が、壮絶な戦死を遂げた!

 決して名誉の戦死ではなく、後から尾を牽いて風評被害になっていたが、輝は2人の愛を請けて粘っこく生きていた。 

 クロマメ病院リハビリ施設では昼休憩にも関わらず、野際と大原輝がリハビリ訓練をしていた。

 輝は自主トレで平行棒に掴まり立ち座りを繰り返していた。

「左に乗せて・・・、骨盤をですよ。」ワンレンの黒髪をしている女性は腰周りが括れていた。

「お尻触らないでよイヤらしい!」またかと、言うようなリアクションを溜息交じりの顔面に諦めが漂っていた。ヤレヤレと天井を見上げた野際。と、そのとき「野際先生いらっしゃいますか?」リハビリ科受付から声がしたと同時にしゃがれた老人が歩み寄る・・・。

「櫻守の篠山教授ですね?」それを聴いた老人がニコニコと会釈をしつつノルディックに寄り掛かっていた。

 無人に近いリハビリ会場では、一人の声が良く響いて対角線上で、約50mあるのに会話が出来るくらいだった。

「野際ですお待ちしておりましたどうぞこちらへ。」

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