第8話 愛の櫻守
令和3年4月・・・。
その老人とは日本学術会議、副会長の科学者篠山静夫(ささやましずお)だった。
「何をなさって居るのですか先生?」桜の落ち葉を拾い一枚一枚丹念に観て背中の竹かごに放り込む篠山を観て大原輝(おおはらあきら)は訝しげに篠山に聞いて見た。
篠山先生は科学者だったのでは?
変異コロナ株の撲滅に成功した篠山は、一躍脚光を浴び、知る人ぞ知る気の置けない人物に世界各国からの学術会議に講演を依頼される事もしばしば、全盛期のピンクレディーの様に移動時間が休憩時間となっていた。
「それにしても先生、櫻守に転身したとは知りませんでした。」どうかお身体をご自愛下さい。
と言って最敬礼し、クロマメ病院の裏側へ消えて行った。
病院の裏側にある夜間・時間外救急通用口を抜けて北側にある抜け道を素通りして裏六甲北神外語大学の隣地に人知れず居宅を構えていたが、ここは誰にも邪魔をされず、二人を弔える・・・。
大原に声を掛けられた事に構わず・・・。
「これは穿孔(せんこう)かっぱん病にやられたね・・・。」
落葉の櫻の葉を観て呟いていた。・・・と、とと、四点杖を頼りに」ヨロヨロと立ち上がり・・・。篠山静夫95歳の春だった。
「ただいま・・・。」大原宅は、誰も迎えない自宅玄関から垣間見える・・・。大原野工夫により仏壇が眼に飛び込んで来るから寂しくは無かったし、部屋をウロウロして仏壇に行き当たり礼子と三咲が亡くなった事を改めて知る残酷な事実に痛めつけられるよりも玄関から心構えを持っていた方が気分も楽だった。
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