第7話
「久しぶり。」
「久しぶり。」
私たちはそれ以外の言葉を持っていなかった。
20歳になり、成人の日を迎えた。
私たちは揃って、町の中心で開かれる成人式へと赴いていた。
この町は、都会へと向かう者が少ない。なぜなら、地元の中にきちんと産業が育っているからだった。
わざわざ慣れない土地に無理をしていかなくたって、暮らせる、暮らし続けられる。それがどれほどありがたいのかということは、ここに住む皆が一番よく分かっていた。
「振袖、ピンクなんだね。」
「うん。どうかな?ちょっと派手過ぎる?」
「いや、似合ってるから。でも昔は大人しかったのに、もともとスタイルは良かったけれど、都会に行って洗練されちゃったんだね。」
「私、大人しかった?結構明るかったと思うけど。」
「いやさあ、明るいとか明るくないとかじゃなくて、何か、あのさ。自己主張、きちんとできるようになたんだなっていうか、大人じゃん。」
「そうかな。」
私は、派手な振袖を身にまとい、そして級友たちと親交を深めている。
今まで関わりがなかった子、昔はもっと不穏な感じだった子、色々いるけれど、総じてみな大人になっていた。
多朗が、私を守ってくれていた。
しかし、私はもう、ここにいる必要なんて無かった。
そう思って、都会へ行った。
一人で、自活をしながら生計を立てた。
両親がいないから、何かと苦労することはあったけれど、誰かの庇護下にいるよりはよっぽどましな人生が、そこにはあった。
そして、「ただいま。」とぶっきらぼうに呟くと、
「お帰り。」と、なんか変な顔をした多朗が迎えてくれる。
「三春、何かずいぶんあか抜けたね。」
「うん…そうかな。」
「そうだよ。きれいになっちゃった。」
「まあそう言ってくれるなら、それでもいいけど。」
私は、照れを隠しながら中へ入った。
ここはもうここは私の住むところではない。
ずっと怯えていて恐ろしかったころのことなど、もう遠い昔の出来事のようだった。
「分かってるよ、おいで。」
「うん。」
私は、私を匿ってくれていた、多朗に感謝している。
そして、一生一人ぼっちのまま生きるしかないと決意している私にとって、多朗は救いの灯だったのだ。
抱きしめられて、体がすくむ。
けれどもう、怖い物なんて何一つない。
私には、するべきことがあって、それをきちんと理解する感覚を持っている。
だから、もう平気だった。
「俺、悪いよな。」
「何が?」
「だってさ、傍から見れば弱っている年下の女の子に手を出した、悪い奴ってことになるじゃん。」
「…馬鹿ね、別にいいじゃん。誰も気にしてないよ。私は、多朗しかいないから。」
「分かってるよ、冗談なんだ。会社でさ、たまにからかわれるんだ。まあ、好意的な意味合いだけど。」
「はは、変だね。」
「本当、お前って適当だよな。」
くだらないことを無視するだけの力が、そこには確かに存在していた。
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