第4話

 「笑わせないで。」

 「笑ってないじゃん、泣いてるんでしょ?」

 「…だって、正樹君がふざけるから、こんな状況なのに私を笑わせようだなんて、傲慢よ。あなたは、馬鹿。」

 「はは、何だよそれ。」

 僕はできる限りふざけてやった。

 秋子さんは泣いていた。

 理由は、分かっている。

 

 ちょっと前のことだった、彼女は三春さんの元へと行っていた。

 連絡しても無視だし、会ってもくれないし、家からも出てこない。

 じゃあ、私は居場所を突き止めたから、今から行くから、となぜか僕に伝えて彼女はそれを実行していたらしい。

 でもさ、そんなのまやかしだよ。

 僕は、秋子さんが本当は何を望んでいるのか、痛い程分かっている。

 きっと、だから僕は彼女のことが大好きなのだろう。

 格好つけた女、ふざけた女、可愛い女、素直な女、色々いるけれど、僕にとっては秋子さん以外の存在など目に入らなかった。

 その点、僕はふざけているのだろうと思っていた。

 でも、秋子さん程いかれた女はいなくて、その位ぶっ飛んでいる奴じゃないと、全く満たされない。

 僕も急いで告げられた住所地へ向かった。

 ち、急がないと本当に何かやらかすかもしれない、と危惧さえしていた。

 僕は、いかれた秋子さんは好きだけれど、だからって、実際に何かを実行してほしいだなんてこれっぽちも思ってなんかいなかった。

 僕は、秋子さんといたかった。

 ただ、笑っていて欲しかった。

 だから、やめろ。


 「はあ、はあ、ちょっと秋子さん。急すぎるよ。ねえ…。」

 「………。」

 無言で突っ立っている。

 彼女は、今にも頽れそうに踏ん張っていた。

 「どうしたの?三春さんに会うんじゃなかったの?」

 「………。」

 口元をゆがめながら小学生のように泣き顔にならないように、必死で抑えている彼女がアホらしくて、今にも抱きしめてやろうかと思ったほどだった。

 「抱きしめていい?」

 ポロリと、口からこぼれた言葉は、憔悴している彼女の目を丸く見張らせた。

 答えなど聞かなかったし、彼女がいつも失敗ばかりしているということは分かっていた。

 負け続けていることも知っていたし、だから、好きだった。

 僕は、ああ、もういいや、僕は一生枝元秋子のことだけを見て生きて行こう、と決めていた。

 誰でもいい、と思って適当な人間を選ぶ人もいるけれど、それって、楽しいのだろうか、大事な人が何人もいる世界なんてパラレルワールドじゃないか、けれど、それでもいいっていう人の気持ちも分かる。

 誰かを大事に思う事なんて、いつからでも始められるのだし、しかし僕と枝元秋子のような関係は、ずっと継続していくことでしか成り立たないはずだ。

 いいんだ、もういいんだ。

 「秋子さん、もしかしてだけど、三春さんに何か言われたの?」

 「…うん、あの子。私のこと怖いって、何で執着してくるのか分からないって。家まで来ないでって、泣かせちゃった。私、泣かせるつもりなんて無かったのに。」

 「あのさ、秋子さん。本当は分かってるんでしょ?自分がしてることはおかしいって、三春さんが言っていることは正しいって。」

 「………。」

 彼女は何も言わなかったけれど、それはイエスという答えなのだということも、僕は知っている。

 「私、この街を出ていく。決めたの。」

 「うん、そうしなよ。」

 

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