第3話
枝元秋子は、とりわけ変な奴というわけではなかった。
しかし、僕は知っている。
彼女にはかかわるべきじゃないってこと、それをきちんと理解している。
この前も、ある女の子が目をつけられていた。
可哀想だな、とは思ったけれどどうすることもできなかった、枝元秋子の欲求は常人からは理解できない程、深いのだと思っている。
だけど、そんな僕は、彼女に恋をしている。
「秋子さん。」
「何?」
ウサギみたいな顔をしていて、笑うと小動物のような顔をしていて、それがすごく好みだった。
「
「いや、そんな。」
つっけんどんな態度で、それを隠そうとしない。
僕の前では彼女は、ただの可愛らしい女の子であって、それ以外の何者でもなかったのに。
「…ちょっとごめん。」
彼女が向かう先は、例の女の子の所なのだろう。
確か、
まあいいか、別に僕は彼女の昔からの悪癖を知っていたし、だからって何かができるわけじゃない。
僕は、秋子さんが好きだったし、それ以外には目をつむることにしていた。
帰りは友達と軽く遊んで、家に帰ったのは夜が深まった頃になってしまった。
けれど、両親は何も言わない。
いう必要がないのだ、だって、人間関係の構築ってすごく大変なのだと分かっているし、それが上手くいかなかった我が家は、別に誰が何をしていようが自分に害がなければ、構うことがなかった。
ベッドに横になり、秋子さんのことを考える。
秋子さんは、女の子が好きというわけではないはず。
なのに、彼女の女の子に対する執着は強く、見ている僕もぞっとしてしてしまう程、ギラリと目を光らせながら、関わっていく。
どこか、かけているところが彼女にあればまだ、愛嬌として受け取れるのかもしれないが、彼女は人に欠点を見られることを極度に恐れていた。
僕みたいな小市民からすれば、そういう、何か潔癖な所がダメで、だから変に人に、というか女の子に関わって、彼女自身の何かが狂っていくのだろうと、思っている。
本音を言えば、僕は彼女にはそんなことをして欲しくなかった。
彼女には、笑いながら普通の人生でいればいいのに、と望んですらいた。
僕は、彼女の幸せを祈っていた。
しかし、彼女はいつまで経っても大事なことには何一つ気づくことがなかった。
だけど、僕が枝元秋子を好きになった理由は、もっと別の所にあって。
彼女がどんなに異常であろうと、僕はそれでも全く揺らがない程、大好きだったのだ。
守りたい、なんて思っていたのかもしれない。
そんな、傲慢な錯覚が、今の僕を支配している。
けれど、
「秋子さん、もういいよ。」
子供のように泣きじゃくり、僕の目の前で体育座りになっている、彼女の顔を見ながら呟く。
「だって、私。もう駄目よ。」
馬鹿みたいに動揺し、興奮し、素をさらけ出している今の彼女が愛おしかった。
いつも、そうやっていればいいのにって、そう思う。
鎧なんかかぶらないで、多分、これからそうすればいいのだ。彼女は、秋子さんは、悪くない。
僕は盲目的な愛を、彼女に注いでいた。
それをきちんと、分かっている。
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