第2話

 取り憑かれたように、私は熱心に作業をこなしている。

 多朗から、少しだけ会社の仕事を回してもらっている。

 といっても、お金になるようなことではなく、本当に雑用といった程度のものだった。

 それは簡単な事務処理で、一応会社のことに関わっているので、公的に委託契約のようなものも結んでいる。

 電話対応だってやっているし、しかし多朗が全てを把握していて、責任もないから大したことはしていないのだと思っている。

 それに、私はいつもそれを午前中で切り上げ、午後からは全く違うことに取り組んでいる。

 外に出ることはできないから、家の中でできること、そうやって手を出し始めたのがゲーム作りだった。

 最初は、簡単なプログラムを毎日作っていた。

 しかし、どんどん欲求が大きくなっていき、今ではちょっとした製作依頼が来るほど、のめりこんでいる。

 でも、どれも私にとっては、この牢獄のような生活の中での、暇つぶしにしかなりえなかった。


 うとうとと、家の中にいても昼寝などはしない。

 そんなことをするつもりなど毛頭なかった。

 私は、本当は、大学に行くつもりだったのだ。

 けれど、あいつが、私に関わってくるから、そのせいで私はどこにも行けなくなっていて、一応、大学には休学という形を取らせてもらっている。

 あっちも、私の事情を分かっていて、しばらくは大丈夫、と言ってくれていた。

 とにかく、何かに甘えるつもりなど毛頭なかった。

 私は、だから早くあいつを、あの女を、いい加減、なんとか、して欲しい。

 

 警察には幾度も伝えていた、けれど彼女は、うまくかわして、何事にもならなかった。

 それじゃあいけないのに、彼女は、枝元秋子えだもとしゅうこは、同じクラスの人間だった。

 高校3年生になり、受験間近だというのにクラス替えが行われ、(これは誰か生徒の希望で、どうしてもクラスを変えて欲しい、という人がいたらしい)私と彼女は同じクラス、そして隣同士の席になった。

 傍から見て、明るく性格の良い彼女とは対照的であったから、あまり話しかけようという気にはならなかった。

 が、そんな、本当に何でもなく、関わりもなかったはずなのに、彼女は私に執着した。

 私は、学校の中では、そこそこ有名だった。

 地元で、両親が自殺していて、それも借金を苦にしているのだ、こんな狭い町では噂の消費物とした使われていて、でもその頃の私には、少しだけ感情が欠落していた。

 まだ、両親は死んだばかりで、人との関わり合いなど、持つつもりもなかったし、そんな余裕すらなかった。

 しかし彼女は、違った。

 私を興味深げに観察し、たまに話しかけ、何かを探る。

 怖かった、何が起こっているのか分からなかった。

 今、とてつもなく大変な時だっていうのに、この女はなぜ、私を、こんなに、苦しめようとするのか、理解に苦しんで、叫び出しそうだった。

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